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≪ 強力な個性を持つ大統領の指導力 ≫
日本財団が支援しているアフリカの農業改革の年に行われる会議が、今年はウガンダのカンパラで開催された。
一小説家としてなら会話をする機会もないムセベニ大統領に個人的にお会いすることがあったが、この方はローリングス前ガーナ大統領と並ぶ個性豊かな方であった。自分の言葉で、周囲を恐れず、抽象的ではない話し方をされる。革を取るためのクロコダイルの養殖場へ私が行った話をすると、昔は人間はワニなど食べなかったものだが、長い間ワニに食われ続けて来たので仕返しにワニを食べるようになったのだという人がいる、と笑っておられた。
しかし大統領自身は、部族の捉として、牛肉しか食べない。鳥を食べると人間が舞い上がる、と言って以前は食べなかった。しかし今では、鶏だけは少し食べるようになった、そうだ。
私が、「鶏は空を飛びませんから、食べても舞い上がることはありません」と言うと、「でも私の父は、鶏を載せた皿は汚れていると言って決して使わない」とユダヤ人みたいなことを言われる。
「一番むずかしいことは何ですか」と尋ねると「マーケットを探すことだ」と言われた。
本当にそうだろうと思う。カンパラは高層ビルも並ぶ近代都市だが、一歩出れば貧しい農村である。電気はなく子供たちはハダシで、飴を配ろうとすると砂煙を上げての奪い合いになる。飴を買ってもらうお金などどこにもないから、飴が口に入るのは年に何度かだろう。
ウガンダの根本的な不運は海岸線を持たないことだ。ウガンダは五カ国に取りかこまれているが、それらの五カ国も貧しくて、とてもたくさんの物を買ってくれるような国ではない。
一番近い港がケニアのモンバサだが、そこまで約八百キロ。関東地方の産物をすべて岡山か広島あたりまで運んで輸出するようなものである。
物を買ってくれるのは主にヨーロッパなので、花や苗を栽培する会社は、自家用輸送機を持っている、という。港を持つ国は持たない国の輸出入業務に対して、いつもイジワルをするものだから、ウガンダの苦労も絶えないだろう。そこで初めて、ムセベニのような強力な個性を持つ大統領の、アフリカ諸国における指導力が、口をきくようになるのである。
この国を「アフリカの真珠」と言ったのはチャーチルだそうだが、素人が見ていても、一国を経営する苦労は際限ない。とにかく、周囲を海で囲まれている日本の幸運は計り知れない。「だから日本ボケしている日本人がたくさんいるんですよ」と同行者の一人が言った。
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