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国の命運担う為政者の情熱 前回、朱鎔基副首相がスイスのダボス会議で国際経済分析を披露し、並み居る世界各国の要人をけむに巻いたことをお話ししました。 世界の政治、経済、文化など各分野の要人が私人として参加するダボス会議での公式用語は英語です。朱鎔基さんは海外留学の経験はなく、中国の理工系大学の最高峰、上海清華大学在学中に身に着けた英語力のようです。当意即妙のジョークが飛び出すほどの使い手とのこと、恐らく現在の中国要人のなかでは数少ないバイリンガルでしょう。 故毛沢東主席と同じく湖南省長沙の出身。湖南省出身者は頑固一徹で「わが道を行く」タイプが多いといわれます。朱鎔基さんもまさに湖南省人です。大ナタを振るわざるを得ない場合は遠慮会釈なく振るう人です。だからこそ、経済成長率を上回る悪性インフレを、見事に退治したのです。江沢民主席を中心とするいわゆる上海閥の核をなす人でもあり、それだけに「成り上がりのテクノクラート」と結構にらまれてもいたようです。 人口一億二千万の日本の経済はいまやひん死の状態、時の為政者はなす術もなく手をこまねいています。比べて、人口十二億の中国は社会主義市場経済という新しい経済システムを機動させる人類史上まれにみる壮大な実験に取り組もうとしています。この実験が吉と出るか凶と出るかは定かではありません。中国の古諺に「河を渡(わた)りて舟を焚(や)く」とあります。朱鎔基さんの今の心境はこの言葉通りのものでしょう。私は言葉の端々から国の命運を担った為政者の情熱を感じました。 中国経済の今後は「親方五星紅旗」で膨大な赤字を抱えた国営大企業の厳しいリストラにかかっています。朱鎔基さんは大ナタを振り回さざるを得ないのです。加えて、リストラにより生まれる失業者の対策が焦眉の急の課題です。「現在、中国では一人の労働に三人が寄生している。不就業労働者対策が一番頭の痛い問題だ」と率直に心痛の程を吐露していました。 私は数人の中国要人に中国の歴史上、朱鎔基さんに比肩できる人物はだれかとただしました。大方の答えは、その才能は今の中国にとっては不可欠のもの。しかし、外交戦略に関しては末知数の部分があり、現段階では歴史上の人物と比肩することはできないというものでした。 が、一人、秦王朝にあって度量衡を制定するなど名丞相といわれた李斯(りし)の名をあげた人がいました。李斯は法治を尊んだ人物です。「社会主義」の枕詞(まくらことば)が付くにしろ市場経済にとって不可欠なのは人治ではなく法治ですから。
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