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核兵器への懸念を表明 先の大統領選挙で民主改革派の旗手として注目を集め、第一回投票でレベジさんに次ぐ票を獲得したヤブリンスキー氏は一九五二年生まれの四十五歳。ソ連解体後、混とんとした経済の資本主義への移行を円滑に成し遂げようと作成された「シャターリン五〇〇日計画」の立案者の一人です。もちろん、五百日間で共産主義体制から資本主義体制に移行できるはずがなく、机上プランに終わったことはいうまでもありません。 また、最近売り出し中のネムツォフ第一副首相の“師匠”筋に当たります。したがって、もともとは経済学者、象牙(ぞうげ)の塔から飛び出し、現実政治の世界に入った人物。米国留学の経験もあり、話し方は理路整然、流ちょうな英語の使い手でもあります。十代のころはボクシングのチャンピオンだったとのこと。若い世代のインテリ層に人気があるようです。 政治ブロック・ヤブロコ代表である彼は、ドーマ(議会)内に立派な代表室を持っています。ヤブロコとはリンゴを意味します。 大統領選挙の際、一分間八万ドルのテレビCM費用がねん出できず、やむなく三十秒のCMを制作、エリツィン大統領のメディア独占を批判することに絞り込んでみたものの、結局どのテレビ局も放送してくれなかったとのこと。メディアは完全にエリツィン大統領に独占されました。 ドイツの世論調査では、テレビ露出度はエリツィン大統領と比べ八百対一であったそうです。メディアを制する者が政治を制するといわれますが、私はロシアの政治もテレビ時代に入ったとの感を強くしました。 政治状況については経済の専門家らしく「昨年一九九六年、ロシアの国際収支は二百二十億ドルの黒字であるはずだが、国内に還元されていない。現政権に信用がないからだ」と、具体的数字を挙げエリツィン批判を展開しました。数多く会ったロシアの政治家の中で、核兵器への懸念を表明したのは彼だけでした。「核兵器管理センターの職員は、ここ七カ月間に一人五十ドルしか賃金を受け取っていない。これで核兵器管理をやれというのは無理であり、ロシアは真の市場経済を見る前に滅びるかもしれない」と、肌寒い予言をしていました。 私が、そうした懸念を解消するためにも、早急に他の政党と反エリツィンで大同団結すべきではとただすと、「われわれは長い間の共産党支配に耐えてきた。あと三年待つのはたやすいことだ。常に次の世代の政治家は待たされるのが定め」と、他人事のような答え。頭脳明せき、優等生とはいえ、政治家としてはエリツィン、レベジの威厳、迫力には遠く及ばないとの感を強く受けました。
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