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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 箔をつける?「権威ある会議」に頼る貧しさ  
コラム名: 自分の顔相手の顔 416  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/03/13  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私は長い間、書斎で一人で仕事をして来たので、組織社会の判断に実際に触れたことがなかった。その弱さは今でも残っていて、名刺を出すタイミングがよくわからない。
 「名刺なんか出さなくてもいい立場でいらしたんでしょう」などと言われるのだが、私のドジは純粋に名刺入れがハンドバッグの底に沈んでしまってなかなか見つからないとか、名刺入れ自体を忘れて来るとかいうことだ。
 先日スイスで行われたダボス会議というものがあった。それがいかなるものか、私にはわからないのだが、日本からは、森総理も、石原東京都知事も、鳩山民主党代表も参加した。参加費は百五十万円で、そこに招待されれば権威ある人と見なされるのだという。
 私はもともと国際会議が苦手なのだが、さらに困るのは、そこで人脈を作ろうとするものほしげな発想があることである。私が働く財団でも、過去に奇妙な人物が介入した会議があった。それを企画したのは外部の人で、「その会議に参加すれば大物だと思われるような会議にする」と言って運営方法や人選のために恐ろしく高いコミッションを取っていた。そんな経緯を知らずにそこに出て来てくださった方々はもちろんすばらしいメンバーだったが、その程度の人選や運営くらいなら私にでもできる。この会議は、出席者に謝礼も出さない無礼なものだったが、ダボスの方は参加料まで取ったのだからもっとすごい。
 「権威ある会議」に行って箔(はく)をつける、という発想ほど貧しいことはない。そんなところで人脈などできるものではないのである。
 人脈を作るには二つの方法がある。第一は逆説的ではあるが、知己であることを仕事の上で決して利用しないこと。第二は、自分が自分独自の考えを持つことで絶えず知的な流れの中に立たせてもらうことだろう。
 どこそこの国で次の政権を誰が狙うか、を予測し、その人と一足先にコネをつけておこうということに熱心な人たちは政界にも財界にもたくさんいるが、これもおかしいのである。そのような人事の予測は、外から見ていても、ほとんど当たった試しがない。
 それよりも、政治力でも、会社の経営内容でも、財団の働きでも、どこから見ても公正な組織内部の力、プラス末端に至るまでその組織で働く人たちの個々人の知性と魅力、をつけておくことだろう。そうすれば、どんな政権になっても、どんな指導者が現れても、向こうの方から探りだして声をかけてもらえる。
 



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