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共産主義大国の強い懸念 香港返還式典の模様を旅先のモスクワのホテルのテレビで見ました。華やかな式典もさることながら、インタビューに応じたサッチャー元英国首相が「共産中国に明日はない」と手厳しい見通しを語っていたのが印象に残りました。 先月中旬ロンドンでお目にかかった際、たっぷりと、中国の現政権批判を聞かされました。英国が香港の中国への返還を決定したのは、彼女が首相のときでした。中国側の全面返還要求に対し、租借地新開はともかく、香港島、九竜地域は条約に基づく割譲であり、力ずくの割譲とはいえ、返還には応じるべきではないとの意見も英国には根強くありました。 私は彼女に全面返還に応じた理由をただしたところ、「中国に法と正義の尊さを教えるためのものです。彼らはいまだに“法治”を分かっていません。英国は“法治”について範を示す必要があったのです」といたって明快なものでした。が、その言葉の裏に過去の植民地主義色を払拭(ふっしょく)できたことへの安堵(あんど)のニュアンスをも感じました。 それにしても、彼女の中国現政権に対する不信感は何が原因かはともかく、相当なものです。日頃、サッチャーイズムに共感を覚える私ですが、いささか戸惑いを感じざるを得ない発言が飛び出してきました。いわく「中国はとう小平さんが約束した五十年間の一国二制度を守るはずがない。必ず言論諸国が一致団結して中国に約即事の順守すべきことを教え込まねばならない。現在のところ、香港が現状維持されると思っている人々は少ない。しかし、中国は今回、国際的約束事を守ることで、世界的評価を高める絶好の機会を得たことにもなる」というものです。 中国要人に知已の多い私にとっては、いささか言い過ぎではと思える内容のものであり、黙ってお説を拝聴していました。 一国二制度の原則が香港で実行されなかった場合、一番困るのは中国自身のはずです。まず華僑資本など外からの資金流入が減少するでしょう。さらには、自由を求めて優秀な人材の流出が始まります。経済センターとしての香港の凋落(ちょうらく)は、中国本土の経済に大きな破たんをもたらすこととなります。彼女にいわれるまでもなく、中国は十分承知の話だと思います。このように考えると共産主義体制下での香港統治は、中国に非常に困難な問題を呼び起こすことになります。国威と経済発展との間のジレンマといってもいいでしょう。彼女の厳しい対中警戒論は、徹底した反共主義からくる最後の共産主義大国への強い懸念によるものでしょう。
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