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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: アラブのこと?「人生の苦難」知るヨルダン王妃  
コラム名: 自分の顔相手の顔 218  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1999/03/01  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   一九九九年二月七日、長い癌との戦いの後で、亡くなったヨルダンのフセイン国王の死は、それをきっかけに多くの問題を明るみに出した。ニューヨーク・タイムズやロイター電などは、故フセイン国王が「まだ実績のない長男に王位をゆずった」ことに対して「陰謀と抗争の火種を提供することになるだろう」とあからさまに書いている。
 かつて国王は、次世代のアラブのリーダーたちに何か忠告があるかと聞かれた時、
 「抑止力などというものは機能しない。機能したのを見たこともない」
 と答えたと言う。絶望ということを知ったすばらしい人間の言葉だ。戦争を語り継げば戦争は起こらないなどというのは、たぶん人間に対する甘い見方なのだ。
 「将来の移譲は、混沌(こんとん)ではなく、見応えのある発展になるだろう」とも王は語ったと言う。
 国王は四十六年間王位にあった。王がかけがえのない存在だったのは、他にこれほど長い間王位にいた人がいなかったからである。それに多くの他のアラブ諸国の指導者たちは、年を取っているか病気かどちらかである。
 サウジ・アラビアのファハド国王。七十六歳。在位十六年。何度かの脳出血の発作に見舞われている。
 シリアのハフェズ・アル=アサド大統領。七十歳。在位二十九年。十五年以上心臓に問題を抱えている。
 パレスチナのヤセル・アラファト議長。六十九歳。PLOの指導者として三十一年間君臨した。パーキンソン病だと言われるが、側近は否定している。
 エジプトのホスニ・ムバラク大統領。七十歳。十八年間大統領の座にある。彼自身は健康だが、全く後継者のことを考えていない。
 イラクのサダム・フセイン大統領。六十一歳。二十年来の指導権を握っている。昨年十月、癌の治療を受けたとも言われる。
 リビアのムアンマール・カダフィ。この人には「プレジデント」というような肩書がない。「清水の次郎長」という感じ。五十六歳で三十年間トップの座を占めているというのだからデビューの時は二十六歳。息子は四人。長男は二十六歳だが、まだ後継者の名前は口にしていない。
 ところでヨルダンの新国王のラニア王妃はクウェート生まれのパレスチナ人で二十八歳。湾岸戦争の後、一九九一年、他の多くのクウェートのパレスチナ人と同様、イラクに協力したと告発されてクウェートを去り、ヨルダンに移り住んだのである。
 その後彼女はカイロで経営学を学び、アンマンで共通の知人を通してアブダラ王子に紹介された。二人は一九九三年に結婚し、既に二人の子供がいる。
 二十八歳の王妃は人生の苦難もよく知っている方らしい。けっこうなことだ。そこにこそむしろ希望もあるし、発展も期待されるところだろう。
 



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