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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 運輸省の訪中?断られてほんとうによかった  
コラム名: 自分の顔相手の顔 366  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2000/08/30  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   九月上旬に予定されていた森田運輸大臣の訪中が、中国側の都合で取りやめになった。
 その理由は森田運輸大臣が、八月十五日の終戦記念日に靖国神社に公式参拝していることを中国側が根にもったためだと日本では考えているらしい。しかし中国は「終戦記念日の前日に(延期を)通告したので、関係はない」と言っているという。それならその通り受け止めておけばいいのに、日本のマスコミが、大臣の参拝を中国は気にしていると思いたいのだろう、と私はかんぐっている。
 しかし問題は靖国神社に行ったか行かなかったかではないのである。運輸大臣の訪中目的は北京?上海間の高速鉄道計画について協議することにあったという。もしこれがほんとうなら、向こうから訪中を断られてほんとうによかった。
 私は日中友好の基本方針には大賛成でもっと両国の交流が多くなることを本気で望んでいる。しかし高速鉄道の建設などに日本が介入したら大変なことになる、とずっと思っていた。中国を相手に儲かっている人など、例外的にはいるのだろうが、華僑社会でさえひどい目にあった話ばかりなのである。
 高速鉄道の運営には、厳密な品質管理がいるが、もし日本の技術で作ったら、どちらに責任があるのかわからないような点まであらゆる不都合は日本側の責任としておしつけられるだろう。儲けるどころか、中国人たちの商才に骨までしゃぶられる。そういう場合の用心や駆け引きが、つまりは商才なのだが、日本人には商才がないのである。そして初めは儲けを目的で取りかかった仕事が、地獄の重さで負担になることは目に見えている。
 一つには、中国だけでなく、東南アジアの人々の意識下には、まだ根強い欧米崇拝がある。だからヨーロッパの企業に対しては不満があっても、言わないか、言い方に手心を加えるのだろうが、日本に対しては言いたい放題になるとしか思えない。
 私は初め、この二大都市間の高速鉄道計画には、日本が技術を提供するほかはない、と聞かされていた。中国経済の大きな伸びは、当然モータリゼーションの発達にもつながるから、もし北京?上海間の交通を自動車道路だけに頼っていたら、大気汚染はすさまじいものになる。それを防ぐためにも鉄道が要る。自動車の増加による大気汚染を一番受けるのはほかならぬ中国自身だろうが、日本も、地球全体も悪影響を被る。それゆえ我が国が何とか鉄道建設に助力をしなければならない、と私は受け取っていたのである。
 しかし今では、ヨーロッパの幾つかの国が、高速鉄道建設に名乗りをあげている。「ほんとうにちょうどよかった。どうぞよろしくそちらにお願いいたします」と言って譲ればいい状況になったのだ。そして日本は中国と、別の、たとえは徹底して文化的なことで、友好を推し進めればいいのである。
 



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