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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: サッチャー元英国首相 2)  
コラム名: 地球巷談 29  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/07/20  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  天安門事件で中国不信に
 前回はサッチャー元英国首相の香港返還についての考え方を紹介しました。今少し、香港返還についてのサッチャーさんとの対話を続けます。
 サッチャーさんはとう小平さんと香港返還をめぐって激しい応酬を繰り広げました。焦点は返還後の香港の地位、つまりはこれまで香港の人々が享受してきた“自由”を中国が認めるかどうかでした。最低限五十年間は一国二制度を保証するとの確約をとう小平さんから取り付けたことで、サッチャーさんにとっては、交渉はそれなりに満足できるものだったようです。
 しかし、天安門事件がサッチャーさんに中国不信を植え付けることとなりました。当時、英国保守党にあってサッチャーさんの信頼厚かった大物政治家パッテンさんを最後の総督に任命、“自由”の種を残そうとしたのです。
 先月中旬、サッチャーさんと腹蔵ない会談を持った際、彼女がしばしば口にしたのが天安門事件で学生たちに理解を示し失脚した当時の総書記、趙紫陽さんの安否でした。
 返還交渉の直接の当事者、趙紫陽さんにサッチャーさんは一国二制度の確実な実行を託していたのかもしれません。一方、天安門事件を契機にとう小平さんへの信頼は色あせていったようです。
 前回、私は香港返還後の中国の国威と経済発展との間のジレンマについて触れました。私は天安門事件を通し、中国は多くのことを学んだはずだと信じています。香港での一国二制度の着実な実施は、今後の中台関係をも左右する重大な事柄です。当面は、静かに中国の動きを見守るべきでしょう。些細(ささい)なことで騒ぎ立てるのは中国を孤立させるだけであり、アジア地域の安定のためにも得策ではないと考えるからです。どうも、この点に関してはサッチャーさんと私の間には意見の相違が残りました。
 いずれにしろ、世界が注視するなか、香港をめぐる中国のかじ取りは極めて困難なものになることは間違いありません。
 香港返還日、七月一日の一週間前、私は所用で北京に滞在していました。天安門広場にはテレビ中継用のやぐらが組まれ、町中はいたるところ、中国の国旗、五星紅旗と赤地に五弁の白い蘭花をあしらった中国香港特別行政区旗が掲げられていました。アヘン戦争以来百五十五年ぶりの香港返還に人々はわき返っていました。
 そろそろ、こうした祝賀ムードも終わり、いよいよ中国はこれから胸突八丁、本当の正念場を迎えるのです。
 



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