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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: 新たな展開を迎えた海賊対策?インド、マレーシアと共同訓練  
コラム名: 海の安全を守ろう   
出版物名: 海上の友  
出版社名: (財)日本海事広報協会  
発行日: 2000/12/11  
※この記事は、著者と日本海事広報協会の許諾を得て転載したものです。
日本海事広報協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事広報協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   今年四月に東京で開催されたアジア地域沿岸警備機関長官会合で合意された「アジア海賊対策チャレンジ二〇〇〇」にもとづき十一月、日本・インド、日本・マレーシア間の海上安全確保のための共同訓練が実現した。わが国からは海上保安庁の巡視船「しきしま」(六千五百総トン)が参加し、訓練は大きな成果を上げた。この訓練には、日本財団の山田吉彦氏も同行し、その様子をレポートしてくれた。
 
?わが国からは海上保安庁の巡視船「しきしま」が参加?
 「アロンドラ・レインボー号」シージャック事件から一年が過ぎた。アジア諸国の海上警備機関による海賊に対する戦いは、さらに新しい展開を迎えようとしている。
 日本の海上保安庁が誇る最大級巡視船「しきしま」(六千五百総トン)は、世界最大の巡視船といわれる。今回の合同訓練の主役「しきしま」は、およそ百人の海上保安官と搭載ヘリコプター・スーパーピューマニ機とともにインド洋にその雄姿を浮かべた。
 海上保安庁は、日本の生命線マラッカ海峡を中心としたアジアの海域の安全確保のための新たな取り組みを開始した。アジア諸国においては、近年この海域で多発する海賊事件の抑制のため、近隣国が相互に協力体制を整えていくことが求められている。
 今年四月、東京で開催されたアジア地域沿岸警備機関長官会合で合意された「アジア海賊対策チャレンジ二〇〇〇」にもとづき、日本・インド、日本・マレーシア二カ国間の海上安全確保の協力体制の具体的な行動が実現される機会が訪れた。
 十一月八日、日本の海上保安庁は、インド・コーストガードとの間で、初めての海賊対策を想定した警備・捕捉連携訓練をインド・チェンナイ沖で実施した。
 引き続き海上保安庁は、十一月十五日、舞台をマレーシア・ポートケラン沖に移し、マレーシア海上警察とも同様の連携行動訓練を実施した。海上保安庁は流出油防除訓練、救難訓練の分野では、フィリピン、インドネシア、韓国などの国々との共同訓練を実施した実績はあるが、海上警備、海賊対策の分野における外国との共同訓練は、今回が初めてである。
 十一月八日、チェンナイは快晴、蒸し暑く、ちょうど日本の八月を思い起こす陽気であった。ベンガル湾は、波も穏やかで、紺碧に輝き、遠く水平線が鮮やかに弧を描いていた。
 今回のインドとの合同訓練には、日本から海上保安庁巡視船「しきしま」とヘリコプター二機が参加し、インド側からは、警備船艇二隻とヘリコプター一機が参加した。訓練では、ベンガル湾を航行している日本の商船が、海賊に襲撃されハイジャックされたことを想定し、容疑船舶の追跡、犯人グループの捕捉と乗員の救出を目指した作戦を展開した。
 今回の訓練のポイントは、情報の輻輳をさけ、正確な情報伝達を行い、両国の巡視船が足並みをそろえた行動をとることであった。海上保安庁サイドも馴染みの薄い英語でのコミュニケーションと、異国の海域における、初めての共同訓練に戸惑いながらも、ほぼ完壁に訓練を執り行うことができた。
 この共同訓練に際し、日本の海上保安庁荒井正吾長官とインド・コーストガードのデ・シルバ長官との間において会談が持たれ、アジア地域の海の安全を守るための連携、協力を今後も積極的に進めていくことで合意された。
 共同訓練終了後、「しきしま」船上で行われた日本の海上保安庁長官主催のレセプションには、インドにおける社会制度の視察のため、同国を訪問中の日本財団・曽野綾子会長も来賓として参加した。デ・シルバ、荒井両長官から、曽野会長に対し、日本財団の国境を越えた航行安全対策、海賊対策などの支援に対する謝辞が述べられ、その後、三者の間では、海の安全と海洋環境を守るための自由闇達な意見交換が行われていた。
 各国の沿岸警備機関は、それぞれの海域において海賊対策に取り組み始めているが、海賊事件の発生はあとを絶たない。今年に入り一月から九月までに全世界では、二百九十四件の海賊事件および海賊未遂事件の発生が報告されている。(IMB国際商業会議所国際海事局調べ)このうち、発生件数がいちばん多いのは、インドネシア領海であり、九十件と突出している。また、とくに注目されることは、マラッカ海峡において海賊事件が多発していることである。昨年一年間で二件しかなかった同海域において、本年すでに三十二件が発生している。
 国連海洋法条約上では、公海上の事件を「海賊」と定義しているが、事件の多くは、マラッカ海峡など各国の領海の入り組んだ海域で発生している。被害を受けている船舶の立場からすると、海域の問題よりは、事件が発生していることが問題であり、ここでは、領海内、公海上の事件も含め「海賊」とすることとする。マラッカ海峡において発生している海賊事件の多くは、夜間、高速ボートで接近、船尾側より侵入し、乗組員を脅し、金品や船用品を略奪していく海上強盗である。
 海賊事件の多発に危機感を待ったマラッカ海峡沿岸国は、積極的に海賊対策に取り組んでいる。とくにマレーシア警備当局は、具体的な取り締りと政策的な対応を始めた。マレーシア海上警察は十月十三日、インドネシア人の海賊グループを逮捕したのをはじめ警備と取り締まりの強化に乗り出した。
 十一月十四日、十五日、マレーシア・クアラルンプールにおいてマレーシア政府主催による海賊対策専門家会合が開催された。日本財団の支援で開催されたこの会議には、アジアの十二カ国・一地域の沿岸警備担当機関の専門家とASEAN事務局が参加し、最近の海賊事件の急増に対処するための関係各国等の連携、協力関係のさらなる推進について協議された。
 会議では、情報連携の迅速化・円滑化のためにITを駆使すること、海賊対策に関するフォーカルポイントを設置することなどが議論された。
 具体的な結論までには至らなかったものの、今後は、海賊対策に加え沿岸警備全般に関する協力関係についての議論する場を継続的に開催して行くことで合意された。
 また、会議のオープニングセッションにおいて、日本財団・寺島紘士常務理事のスピーチの中で、マラッカ海峡における海賊問題、航行安全、海洋環境保全のために沿岸国と海峡利用国が協力し運営する新しい制度的枠組みの創設が提案され、参加者の間で注目を集め、会議中にも部分的に早急に検討すべきとの意見が出された。
 十五日、海賊対策専門家会合終了後、マラッカ海峡に面したポートケラン港沖で、日本の海上保安庁とマレーシア海上警察によりインドと同様の共同訓練が行われた。アジア各国の会議参加者および報道関係者などが見守る中、ヘリコプターから海賊船への降下訓練や「しきしま」を中心とした追跡、捕捉訓練が展開された。
 両国巡視船による綿密な無線のやりとり。完全武装したマレーシア特殊警備隊員による行動などを目の当りにし、作戦完了時には見学者から、驚嘆と賞賛の声が上がった。
 マラッカ海峡の紺碧の海原に浮かぶ「しきしま」の白い船体の、その凛とした姿は、隔たりのない地球の海の安全を守る人々の気高い心を象徴しているように感じられた。
 



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