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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 女性の会話?「年齢と体重」“卒業”すれば  
コラム名: 自分の顔相手の顔 63  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1997/07/07  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   こんなに女性議員の進出が望まれているのに、骨のある女性の政治家がほとんど出ないのは、女性がそれを望んでいないからだろう、と思う。結婚生活と仕事と二つは成り立たない、という理由はあるが、それはほんとうにそのことをしたければ、私のように何とかかいくぐってやるものだからだ。
 女性には怒られるかもしれないが、どんな分野にせよ、今のていどの女性の意識では、専門家やプロが出るのは極めてむずかしいかな、という気がする時がある。
 私の周囲には、成績も優秀、学歴も高い、という女性はいくらでもいるのだが、どんなに勉強ができても、人間そのものに興味があるのかどうかわからない時もある。
 女性たちが数人集まると、まず話題になるのは他人の年齢のことである。
 「あの人幾つ?」に始まって、「あの人鼠(ねずみ)年よ」「違うんじゃない? 虎だと思うな」式の会話が続くので、私のように十二支で年を覚える趣味のない者は会話についていけない時がある。さらに「あの人、巳(み)年でしょう。しつこいのよ」となぜか顔をしかめ、「あの人、ヒノエウマだから、やっぱり離婚したんだって」とあくまで年の話である。
 或る時、私の留守に、一人の女性が電話をかけて来て、私が何歳かだけを尋ねたという。別に年金などに関係のある調査でもないらしい。つまり彼女の人に関する興味は年齢だけなのである。
 さらに最近の女性の会話の特徴は、「あの人、お太りになったわね」というものになって来た。私は昔から近視だったせいか、人がどれだけ太ったか痩せたか、よくわからない。十キロも二十キロも太ったり痩せたりすれば、人違いをするかもしれないが、必要もないし、確実でもないのに「あなたお太りになったわね」とか「お痩せになったわ」などとは言わないことにしている。その人が健康上、太りたいと思っているか、痩せたいと思っているかわからないし、太った痩せたは、特に触れる必要もない話題だからである。
 相手が痩せても太っても、彼女たちの言葉にはアクイがこもっている。しかもそのアクイが丸見えになるほど精神構造も単純だ。
 太れば醜くなったということで相手をおとしめたつもりらしいし、痩せればしわしわになったという悪口である。そして相手が太っても痩せても、彼女たちは自分を棚に上げて快いのである。
 早々と亡くなった私の友人の一人は、太っていたから、肌が信じられないくらいつやつやだった。六歳年下の私の方がいつも皺が目立っていた。ほっそりしている別の友人たちは、いつも九号の服が着られて羨ましい。私は縦も横も日本人の規格外らしいから、仕方なくドイツのカタログ販売で服を買っている。
 女性たちの会話から、年の話と太ったか痩せたかの噂が出なくなる日が来た時、初めて男女は、仕事も同等にできるだろう。
 



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