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イエズス会の神父たちが、デカン高原の中のムンドゴッドという町で経営している「ロヨラ・スクール」は、ヒンドゥの階級制度の外に追いやられている部族の子供たちのための学校だが、その一つの部族はシディという。 彼らは昔アフリカから奴隷としてゴアを経由して連れて来られた人たちだが、ひどい生活を強いられた後、当然のことだが逃亡奴隷となった。だから彼らは捕まるのを恐れて、森の奥深く逃げ込み、人を見ると逃げるようになった。ついこの間まで、この性癖は残っていたのだという。彼らはネグロイドだから、肌の色が黒くて髪の毛が縮れている。この肉体上の特徴がまた差別や偏見の元となる。 シディも、ガウリと呼ばれるもともとは遊牧をしていた種族も、森の中に住んでいるが、そこからは公共の交通機関(バスや電車など)が全くないので、子供たちはどうしても学校の近くの寄宿に入らねばならない。 彼らは学校近くの土間一間だけのホステルという宿舎に集まって住んでいる。夜は土の床の上に上敷一枚を敷いて雑魚寝をする。もちろんトイレも風呂もない。寮母さんと賄いのおばさんが一人ずつ。しかし裏の台所からは香ばしい薪の匂いがしていて、何となく懐かしく温かい空気である。 インドでは宗教が皆違うから「ロヨラ・スクール」でも、祈りは「神」にする。皆それぞれに違った神だから、神父たちといえどもキリスト教の神を特定したり、神はイエスだなどと教えることはない。ただどの神も、子供たちを深く愛している神だと教える。 この地方にはロマ(ジプシー)もいる。正直に言って、私たちはロマをほとんど知らない。旅行でイタリアヘ行った人は、ロマにはすりが多いから気をつけるように、と注意をされるくらいだ。 インドのその地方に住むロマはランバーニと呼ばれているが、やはりロマ的気風が濃厚に残っているという。せっかく子供が学校に馴れた頃、突然或る日一家で移動していなくなってしまったりすると、先生の神父はがっかりするらしい。 学校で子供たちが踊りを見せてくれた時、ランバーニの子供たちは、ロマ風のキラキラのヴェールや鼻輪や足の鈴をつけて踊る。しかし人数が足りないらしく、シディの子供もランバーニになって踊っていた。この混じり方がすばらしい教育だ。 催しの後、神父の校長先生が「ランバーニのお母さんたちが来ていますから、会いますか?」と聞いてくれた。「前回来た時、一軒のランバーニのおうちにお訪ねしました」と私が言うと、一人のお母さんが「それは私のうちです」と言ったので、私はまた改めてしっかり握手をし、お礼を言った。 個人的にロマを知ってその家を訪ねた人など、日本人には少ないだろうと思う。そうした知人が一人でもいると、ロマはすりが多いなどと決して思わなくなるのである。
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