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人質事件後すぐペルーに入った池田外務大臣が、安全なホテルにだけいて現場には立ち寄らなかったとか、橋本総理は夜遅くまで働く外務省の関係者に、アンパンを買って届けただけだとか、そういう書き方をするマスコミは、すべて記者の教育がなっていないのだろう、と私は思っている。 人はいろいろな立場ですることがある。 昔、エチオピアなどの飢餓で死にかかっている子供が続出した時に、それを写真に撮るだけで、何も助けなかったカメラマンは一体何をしていたのだ、という非難があった。骨と皮だけの老人のような顔つきになった極度の栄養失調の体には、カメラマンが被写体に選ぶほどの状態になると、もういつ突然の死が訪れても不思議はないのだ、と教えられたことかある、しかし、カメラマンはその悲惨な写真で、恐ろしい状況を全世界に発信することができた。カメラマンは写真を通して、最も大きい仕事ができる。 外務大臣がずっと現場にいたり、総理が事件の進捗状況をマスコミにすべて話すなどということは、今回の事件のような時にはあり得ない。指揮官はほとんど前線に出ず、後方で作戦を考え指揮を取るのが常道だ。全体が見えるのは、常に最前線ではなく、後方である。外務大臣は肝心な所だけしっかり方策を決めて、後は日本に帰って指揮を取るのが当然だろう。 総理がアンパンを買う以外のどれほどのことを秘密裡にしているか、誰も知らない。戦略というものはすべて、秘密のうちに行わねばならないことだからだ。相手に手のうちを知られたら、闘いなどできない。情報公開などできないし、してはならない部分である。それがわからない小児的なマスコミ関係者が今回ほど目立ったことはない。 現場で働く人はもちろん大切だ。しかし後方で、政治的な対策をこうじたり、物資の手配をしたり、通信を受け持ったりする人も同じくらい大切だ。人は皆、自分の持ち場と特技で働くことだ。自分の働きだけが本物で、他人の仕事は大したことはない、と思うことほど嫌らしいものはない。 ナホトカ号の重油が流れ出して以来、私が働いている日本財団も、物資とお金をすぐに送った。と同時にボランティア支援部の若者が一人ずっと現場にいて、東京がどんな対応をすべきか常に連絡を取っていた。 そこでも「日本財団は何人清掃に出しているんですか」という質問があった。出していないなら、非難されるべきだ、という調子がこもっていた。私たちはたった八十七人で七百億近いお金を、日本と世界に向けた人道的な目的に出している。その仕事は人が考えるほど簡単ではない。お金を出していいかどうか相手を見極めるのにかかり、後の調査も手は抜けない。 重油流出の現場に何人も職員が出ていたら、他の仕事は滞る。私はそうはっきり答えることにしている。
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