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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: ハベル・チェコ大統領 4)  
コラム名: 地球巷談 46  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/11/16  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  国の外交の在り方考える
 前回、九月にチェコの首都プラハで「フォーラム2000…新たな千年紀への希望」という国際シンポジウムが開催されたことに触れました。
 四日間にわたったシンポジウムヘの出席者は六十人。うち、平和、文学、科学など各分野でのノーベル賞受賞者十一人が顔をそろえるという文字通り人類の英知を集めた会議となりました。会場は九世紀末に礎が築かれたプラハ城の「スペイン広場」があてられました。十七世紀初めに建てられたルネサンス様式の「スペイン広間」にコロシアム式の仮設会場をしつらえ、中央の楕円(だえん)形テーブルに出席者が座り、その周りを聴衆が取り囲むという“開かれたシンポジウム”でした。西暦二〇〇〇年を目前にした「今日」を起点にしての過去、現在、未来について侃々諤々(かんかんがくがく)の論議が展開されました。
 シンポジウムの内容もさることながら、歴史的建造物「スペイン広間」を会場に開放したハベル大統領のいきな計らいに驚きました。日本でも、大仕掛けな国際シンポジウムが開催されはしますが、国宝級建築物を使った例はありません。元赤坂の迎賓館を使って国際会議を開催するぐらいの発想と柔軟性が為政者にあればとつくづく思いました。
 それにしても、文人政治家ハベル大統領は面目躍如たるものがありました。世界各地から集まった並み居る哲学者、文学者、宗教家、政治家、皆旧知の仲なのです。日本の政治家との乖離(かいり)を覚えずにはおられませんでした。果たして何人の日本の政治家がこの種のシンポジウムに参加し、堂々と歴史、文明、哲学について持論を開陳できるかはなはだ疑問です。世界に向け二十一世紀を語り得る政治家を育てることが日本国民にとっての急務ではないでしょうか。
 話は変わりますが、日本政府、特に外務省は「文化交流」を外交の大きな柱に掲げています。「文化交流」の対象国にはもちろんチェコも含まれているはずです。しかし、四日間のシンポジウムの期間中、少なくとも私は会場でプラハ在住の日本大使館関係者にお目にかかることはありませんでした。開催期間中、フランス、米国などは大使館主催のパーティーを開催、出席者を招き、自国の存在をアピールしていました。特に、オルブライト国務長官が飛来し、またクリントン大統領の就任式で国歌を独唱したカメリア・ジョンソンが記念演奏会で熱唱するなど、米国が存在を誇示していたのが印象的でした。
 「人と知り合うのが外交の始まり」というそうですが、わが国外交の在り方についても考えさせられるプラハ城での国際シンポジウムでした。
 



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