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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: ジリノフスキー・ロシア自由民主党党首  
コラム名: 地球巷談 42  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/10/19  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  選良意識の中に強い祖国愛
 「奇矯な発言で世界のマスコミをにぎわす極右のロシアの政治家」。これがわが国で定着しているジリノフスキー氏へのイメージでしょう。
 しかし、ソ連邦解体後、突如として政治の舞台に登場してきた極右政治家ジリノフスキー氏は、ロシアでは一部の層ではありますが、五、六%程度の支持を得ています。今後のロシア政治のかぎは「合従連衡」、政権奪取のためには野合的連合もおおいにあり得ます。可能性は極めて少ないものの、ジリノフスキー氏率いる自由民主党が、キャスチングボートを握らないとは言い切れません。
 ジリノフスキー氏はかっぷくも良く五十一歳の実年齢よりは若く見えます。彼のワンマンぶりは聞いていましたが、私が会ったときも遠来の客に粗相があってはならないとの命が出ていたからでしょうか、並み居るスタッフには一種異様な緊張感が漂っていました。
 さて、彼の展開するエリツィン批判はユニークなものでした。元共産党のノーメンクラツーラだったこと、酒飲みの病人であることまでは分かります。しかし、エリツィン大統領が農村出身の建築技師であるという出自が問題だとなるといささか首をひねらざるを得ませんでした。「農村出身で地方大学の教育しか受けていない人物は世界観が狭い。まして、技術者あがりには文明というものが理解できない。欧米の指導者は人文系の学問を修めている」というわけです。モスクワ大学で中東史を専攻したとの選良意識が言葉の端々からにじみ出る感じでした。
 日露関係についての見解もジリノフスキー氏ならではのものです。一九四五年の対日参戦は地政学を知らないスターリンの大誤算だった。共に手を組んで南下政策を推進しておれば、日霞双方は世界を手中にしていたはずだ。学のないヒトラーが東方に手を出したことも失敗。学問のない連中は仕方がない」。ここでも彼一流の選良意識が飛び出しました。
 また、北方領土問題については「香港返還の顰(ひそ)みにならうわけではないが、行政権を日本に渡し、以降五十年間は両国の兵力を同時駐屯させることも一案だろう。ただし、見返りは沿海州、樺太、カムチャッカヘの日本の巨額の投資である」とのこと。総じて、極東アジア地域を考える場合、ロシアの政治家の頭には地政学的見地から中国の膨張政策への懸念が生じるようです。
 一見、荒唐無稽(むけい)に聞こえるジリノフスキー氏の発言ですが、その言葉の裏には常に祖国の存亡を考える真摯(しんし)な姿勢もうかがえました。
 



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