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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 貧困の層?先進国の援助も受けにくい  
コラム名: 自分の顔相手の顔 373  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2000/09/26  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   南アメリカ各国の都市が、ここ数年の間に、それなりに大きな進歩を見せていることは、一旅行者の私の眼にも明らかである。
 軽薄な形では、各地にスーパーマーケットができた。中流階級がほとんどいない、貧困家庭と金持ち階級だけ、という社会で、誰がスーパーに行くのだろう。スーパーというものは、まさに中流生活者のためのものだろうに、とも思うが、それでも成り立っているように見えるのは、南アメリカの貧困はアフリカの貧しさより一段上だからなのではないだろうか。
 アフリカでは、一家が一日に一ドル(百七円)以下で暮している人たちを私はたくさん見たが、南アメリカの社会の最低賃金はそれよりはるかに高い。物価もそれなりに高いのだろうが、飢えた人がいないということもその特徴である。南アメリカはアフリカと違って、とにかく水がある。「バナナが生える土地には飢餓がない」と私がいつも言っていることは、南アメリカの諸国でもはっきりと目に見えている。
 道路も舗装がどんどん伸びている。ということはしかし、まだ未舗装の道がうんとあるということだ。舗装のない道がどんなに埃を立て、車の速度を落し、荷物と車体を壊すか、ということを日本人は知らない。日本の各県に少なくともわざと数十キロの未舗装の悪路を放置して残し、そこを「教育道路」として、必らず子供たちの乗ったバスを通させてほしい、と私は思う。そうでなければ、日本人は、アフリカや南アメリカや、広大なアジアの田舎の生活を思いやることができない。地球ができた時から道は舗装されているのだ、と思いかねない若者がふえて来ているのである。
 しかし経済の仕組みは、そんなに簡単ではない。ボリビアでは麻薬撲滅の運動をやったために、国家に金が入らなくなってしまった。金持ちほど税金を払わない、という基本的な社会構造はまだしぶとく残っている。大農場の持ち主しか生き残れない。
 南アメリカ諸国の直面するむずかしさの一つは、この程度の国力があるともう先進国の援助を受けにくい、ということだ。どの国でも日系人たちは努力して勉強し、いい診療所や病院を作っている。その国で一番の設備を持っていると思えるところもある。
 そうなると援助は、地球上でもっと貧しい土地に流れることになる。しかし南アメリカにもほんとうに貧困な階層が残っていることは事実なのだ。
 日本からの援助を受ける方法は、今後その国の最低生活者層に、最先端の技術の恩恵や職業をどう分け与えるかにあるだろう。どう分けるか、というより、病院なら日系人と全く同じ条件で土地の人々が利用できるようにするのが今後の課題となるだろう。それがつまり日系人の「徳」を示す表現である。日本の本土も、外国の日系社会も能力や正直さにおいては群を抜いている。しかし「慈悲」や「徳」のある集団とは思われていないのである。
 



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