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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 評判と現実?アメリカ大統領が見たもの  
コラム名: 自分の顔相手の顔 428  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/04/25  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   ここ数年、私はインドのシリコンバレーだと言われるバンガロールという町に行く用事があるのだが、時々その評判と現実の差に悩まされることがあった。
 先端的なICの頭脳と技術が集まっている所だというのに、よく三、四時間ずつ停電するのである。多分、地区によるのだろう、と私は考えていた。コンピューターの会社や研究所の集まる地区には、安定した電力が供給されている。しかし、私が泊まるのは、カトリックが経営している修道院付属の信者会館だ。貧しげな家も近くにたくさんある。そうした町はもともと電力をたくさんは使わないのだから、電力の供給量に限度があって、停電も多いのだろう、と考えていたのである。

 しかし英字新聞にはおもしろい話が出ていた。去年、当時まだ米国の大統領だったクリントンは、たった四時間だけだったが、インドではナイラという村に立ち寄った。その村は、昔は単なる田舎の村に過ぎなかったのだが、インドの急速なIT革命の波を受けて、最先端の機能を持つようになった。ナイラはその一つのモデル村だということで、クリントンに紹介されたのである。コンピューター化された牛乳工場。インターネットにつながれた村議会。人々は家庭に居ながらにして、必要とする情報をインターネットで得られるようになっている。

 クリントンは、心からそう思ったかどうかは別にして、インドの村落は世界のテクノロジーの進歩と完全に一致しているとして、ナイラをWorld Economic Forum(世界経済フォーラム。ダボス会議を主催)の場で称賛した。

 しかしクリントンは、彼がその村で見たものは、州が米国の大統領に、よい印象を与えようとして、急遽作ったショーウインドだということを、全く知らなかったのである。

 クリントンが村に来た直後、州首相は、ナイラ村議会は州の他の村の一つのモデルになるだろうとさえ言った。しかし今、その時ナイラ村が既に得ていたかに見えたすべての物は、夢であって、彼らは州政府に騙されたと思っている。ナイラは現在、他の村々とほとんど同じである。必要物資もないし、あらゆるサービスは悪いままである。

 これも現実だろうが、インドには又けたはずれに優秀な科学的頭脳がたくさん存在することも事実なのである。バンガロールの旧市街地の一部が始終停電するからと言って、それでインドのIT事情を推し量ってはならないだろう。
 



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