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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 自宅を天国に?近づけることはできるはず  
コラム名: 自分の顔相手の顔 440  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2001/06/12  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   東南アジアの海のリゾート地のホテルの広告には、時々夢のような場面がある。海の上に突き出した浮殿のようなバンガローには、個人用の野天風呂や小さなプールがしつらえられ、香高いランの花が水の上に浮かべられている。もちろん野天風呂のそばのテーブルには、その土地らしい名前をつけたカクテルや、南方の果物や花が飾られているのだ。海は満月を映し、それは文字通りこの世に出現した天国だとしか思えない。

 そうした背景を踏まえてのことだろう。「あなたの家をぜいたくなホテルのようにしてみたらどうですか」という記事がシンガポールの新聞に出ていた。リゾートの天国風ホテルに泊まれば、二人で五万円は払わねばならない。自分の家がずっとそんな風なら、どれほどすばらしいだろう、という理屈である。

 我が家を五つ星のリゾート・ホテル風にするには、五つほどのこつがある、と記事はなかなか親切である。第一は室内の装飾をできるだけ単純にすることである。壁紙や天井や照明などには、材質や色をあまり多く取り入れない。少なすぎることは、過多に優る、という原則がある。第二は、高い家具をやめて、使いよいものを選び、時々貼り変えればいい布地で変化をつける。第三は、浴室だけが少し日常性を離れて遊びを入れてもいいところである。それでも金具などは普通のものを使うこと。第四が台所にしゃれた暖炉や煙出しなどを入れる必要はない。ごくありふれたステンレス製が最高。第五が電気の取り入れロをたくさんつけること。電話、IT、テレビ、電動式ブラインドや照明などのために、電気の必要量は増えるばかりである。

 さて、これだけの条件を揃えれば、現世の天国のような、五つ星のリゾートホテルのような我が家が出現するか。新聞の写真には、極彩色の鳥の羽根が大きな塊になって舞い下りているような食堂のシャンデリアや、人間がプールで泳ぐ時一緒になって泳ぐコイの池とかがイメージされているが、私に言わせれば、豪華ホテルと自宅との最大の違いは、ホテルには雑物がないことなのだ。ホテルには何もないすがすがしい空間が溢れている。我が家を豪華リゾートホテルに近づける方法は、不要なものを、買わない、置かない、捨てる、ということである。その上に掃除をし、磨く、ということだ。

 しかしそんな単純なことが、日常生活の中ではなかなかむずかしい。しかし近づけることはできるはずだ。
 



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