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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 北朝鮮支援1200億円?国内政治の貧しさを放置して  
コラム名: 自分の顔相手の顔 377  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2000/10/11  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   最近これほどの国費の浪費を見たことがない。北朝鮮へのコメの支援は最終的には約一千二百億円に到達するというのだ。今まで私のような日本人が黙っていたのは、それほどお腹が空いている人たちがいるなら、お気の毒だから仕方がない、という感じだったのだ。
 しかし日本中で予算を切り詰めている時に、この一千二百億円という巨額の金は、「人道援助」ではなく「政治支援」だと言い、河野外務大臣はそれを将来に向けての「環境整備」だと言っている。河野外務大臣は今まで、きりっとした威厳と哲学のある外交姿勢を示したことのない方で、一刻も早く外務大臣をやめていただきたい、と私は思っている。
 ということは、悪い方だということではない。他の方面では多分心優しく楽しい方なのだろう、と思うが、力を正当に行使できない外務大臣や外交官僚は国民にとって災害である。
 もう以前にも書いたと思うのだが、日本人は他国人も自分と同じように考えると信じているこの上ないお人よしだから、北朝鮮もコメをもらえば日本に恩義を感じて感謝するだろう。それが環境整備に繋がるなどと考える。
 しかし世界的にそういう考えはほとんどないのだ。日本が理由の明確でない支援をすれば相手はそれだけ自分に悪いことをした自覚があるのだろう、と考える。だからもっと取ってやろうという反応になるのである。
 昔イスラエルのパレスチナ難民キャンプに行った時、口を極めてアメリカをののしった女教師がいた。当時パレスチナ難民を支援していた最大のドナーはアメリカ、次が日本だったから、私は彼女に、あなたたちはどうしてそれほど悪口を言うアメリカから金を出してもらうのかと尋ねた。すると彼女はいっそういきり立ち「アメリカはパレスチナに悪いことをしているという自覚があるから金を出すのだ。なければ出すわけがない。だからもっと取ってやればいいのだ」と喚いた。これが世界的に通用している一つの論理だろう。
 政治的支援なら、なおさら見返りにどれだけのことを相手にさせます、ということの「一部だけでも」はっきりさせて国民を納得させねばならない。
 北朝鮮のことを一般の日本人はどう思っているか。日本に向かってミサイルを打ち込み、領海侵犯をした不審船が逃げ込んだ港を持ち、ニセドルを印刷したことが世界中に知れ渡っている犯罪国家なのだ。人道的な支援に感謝など見せるわけがない。
 そういう国に対してどうしてそんなに一千二百億円も出すのか、と一般国民が納得しないのは当然だろう。
 国民は老齢化問題、景気不振、地方自治体の赤字問題などで不安を抱えている。体の不調が長びいている老人は、三カ月以上連続して面倒を見てもらえる病院が少ないからたらい廻しの不安に脅えている。
 こんな国内政治の貧しさを放置しておきながら、北朝鮮へ巨額の支援をしたらどうなるか。政府自民党は結果をよく考えた方がいい。
 



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