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著者: 寺島 紘士  
記事タイトル: マラッカ海峡 国際管理で  
コラム名: 論点   
出版物名: 読売新聞  
出版社名: 読売新聞社  
発行日: 2000/02/29  
※この記事は、著者と読売新聞社の許諾を得て転載したものです。
読売新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど読売新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   日本の生命線、マラッカ・シンガポール海峡の航行安全を管理する国際機構の設立を真剣に考えるべきときが来ている。昨年十月この海峡で起こった「アロンドラ・レインボー号」の海賊事件は、現代の海賊の脅威を突き付けた。この事件を契機として、わが国の提案で東アジア諸国の沿岸警備当局による初めての海賊対策会議が三月及び四月に開かれ、海賊取り締まりの連携協力が話し合われる。海賊の予防対策、迅速な情報交換、関係国合同の訓練、パトロールなどの成果を期待したい。
 しかし、海賊問題は航行安全問題の一部であり、この海峡はもっと総合的に安全管理の対策を講じないと守れない。ここは狭い航路、激しい潮流、多数の浅瀬や礁、加えて海峡を横切る船や漁船も多く、航海上の難所だ。その航行の安全を確保するために、水深を測る水路測量、海図の作成、沈船の撤去、灯台などの航路標識の設置・点検・補修整備、通航路の設定など様々な対策が実施されてきている。
 それだけではない。年間四万隻を超える通過船舶の運航整理、安全基準を充たさない老朽船などの取り締まり、海難事故による流出油の処理などの対応もある。九七年にシンガポール海峡で起こったタンカー同士の衝突で重油三万トンが流出したときの緊張は記憶に新しい。
 問題は、マラッカ・シンガポール海峡の主要部分が沿岸三国の領海であるため、現状は、海賊取り締まりに限らずこれらの対策は基本的に各沿岸国がそれぞれの責任と負担で対応するところにある。長さ五百キロ・メートにおよぶ分離通航路の設定と強制船舶通報制度の施行に伴ってさらに航路標識の増設が必要になるなど、この海峡の航行安全対策に要する費用は年々増え続けている。このため、最近沿岸国からはその負担には限界があり、国際的支援がなければ新たな設備の設置は難しいとの声が上がっている。
 昨年十月のマラッカ・シンガポール海峡国際会議で、シンガポールの運輸情報通信大臣は、海峡の航行安全と環境保全のためのインフラを提供する責任を沿岸国だけに求めるのは不公平であるとして、利用国も資金拠出をする国際的枠組み作りを求めた。九六年に発効した国連海洋法条約は、国際海峡の航行安全確保と海洋汚染防止について利用国と沿岸国は協力すべきと定めており、沿岸国の主張のよりどころとなっている。確かに、今やアジア地域の経済発展にともない、マラッカ・シンガポール海峡は日本のみならず他の海峡利用国にとっても重要な生命線だ。
 利用国も衡平の原則に照らして応分の協力をすべきという主張に説得力がある。利用国の中では日本が唯一、沿岸三国の要請にこたえて六八年以降、航路標識の整備・点検など各種の航行安全、海洋汚染防止の対策に資金、技術協力を行ってきている。しかし、近年、海峡利用が増加している中国、韓国をはじめ他の利用国の協力はいまだ得られていない。また、わが国にしても主に海事関係者が設立し、日本財団等が資金援助しているマラッカ海峡協議会からの協力であり、国ベースのものではない。
 そこで、マラッカ・シンガポール海峡の国際海峡としての重要性を考えて、この際、わが国が沿岸国、利用国に呼びかけて、応分の資金拠出をするメカニズムとして、この海峡の安全管理に総合的に取り組む国際機構を設立してはどうか。この国際機構は沿岸国、利用国、国際海事機関などの代表によって運営し、海峡の航路管制、航路標識の設置・点検・補修整備、航路警備、油流出事故対応などを対象業務とする。現在、沿岸国が実施している実務との関係をどう整理するかなど具体的なことは、今後、沿岸国の主権を尊重しつつ関係者間で詰めればよい。
 海賊対策なども、現状では関係国間で合意されても、その実行は基本的に各国の主権のもとでの各自の対応が基本であり、結局、各国の事情に左右されるが、この国際機構が航路警備の一環としてその主導のもとに対応すればより実効ある対処ができる。
 わが国は、この海峡を領海とする沿岸三国とよく協議し、また国際海事機関とも密接な連携のもとに他の利用国にも協力を求め、海峡の国際安全管理機構設立にイニシアチブを取るべきではないか。このことはアジア地域の平和と安定に貢献し、日本のプレゼンスを高めることにもなる。
 
※この記事は読売新聞社の許諾を得て転載したものです。寺島紘士氏及び読売新聞社の著作権を侵害する一切の行為を禁止します。
 



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