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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 禁止とベタベタ?ふざけた飛行機のサービス  
コラム名: 自分の顔相手の顔 251  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1999/07/05  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   日本航空が人気ロックグループ「GLAY」の肖像画を胴体に描いたジャンボ・ジェット機を羽田・北海道間に飛ばすことが話題になっている。ファンならばあの絵のついた飛行機に乗りたいと思うのだろうけれど、「時代遅れのラクガキ」という感じで、どちらかというとそういうふざけたことを思いつく体質の航空会社には乗りたくないな、という印象が残る。
 飛行機の外装というものは、識別が第一に必要なものだろう。安全のためにも、遠くからどこの飛行機が飛んでいたという認識が一目で可能であることが大切なはずだ。各国の飛行機会社が、一斉に胴体を広告に使いだしたら、一体どうなるのだろう。広告としてもこれは礼儀を欠き、邪道に踏み込んでいる。
 飛行機のサービスというものは、決してこういうものではないはずだ。
 まず安全性。これは基本的なことだから、私たち素人が口出しできないところである。
 次が快適性。これが決していいとは言えない。国際線のエコノミークラスに乗ると、本だの眼鏡だのの置場も充分ではないし、脚台がないことにも悩まされる。申し合わせて脚台をつけないことがエコノミーの条件なのかもしれないが、構造次第では不可能なことはないだろう。
 次が機能性。国内線も国際線も、すべての座席に電気のさし込み口があって、コンピューターやワープロを使えたら、私は必ずその航空会社を選んで乗る。最近幾つかの航空会社が機内にビジネスデスクを作って、そこではもちろん電話をも含めた事務的な仕事が可能になったという噂を聞いて、それがほんとうかどうかまだ確かめていないのだけれど、ほんとうなら大きな魅力である。
 不親切と言えば、関西空港というのも、使いたくない設計になっている。外観は陰鬱、通路は狭く、エレベーターによっては止まらない階があって乗り換えなければならない。買い物をするフロアーでは荷物を運ぶ車を使えない。脚の弱った老人や、子連れの婦人は一体どうしたらいいの? と聞きたくなる。客のことは考えず、自分の都合を優先して禁止条項をたくさん作り、むかしの「お上」が経営しているような、前時代的な精神の溢れた空港である。
 シンガポール空港には、ビジネス以上の待合室には「仮眠室」もすばらしいシャワー・ルームもある。足のマッサージができるホテルにも気楽に入れるし、数時間以上の待ち合わせ時間があれば、ただの市内観光もさせてくれる。そこでは禁止が主な動機ではなく、どうしたら客にどれだけのことが自由にしてもらえるか、という発想がある。
 日本人の特徴は、大人の客にはやたらに禁止することが好きで、子供にはべたべたに許すことが好きだ、ということである。外国の航空会社は、労(いたわ)りの感情から時々眼をつぶって小さな規則も度外視してくれる人間性もある。
 



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