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国際会議で綿密な金融分析 十月二十二日、香港株式市場が大暴落、これが引き金となって各国の市場が軒並み大幅な下げを記録しました。私が朱鎔基副首相にお会いしたのは、香港株式市場大暴落の直前でした。 先にも触れましたが、朱鎔基さんは日本の国会議員団への発言が誤解され、香港の株式指数であるハンセン指数が五〇〇ポイント下落しただけで、かなりご機嫌斜めでしたから、今回の暴落は相当ショックのはずです。 もともと、中国経済の改革解放路線の理論的指導者であり、お会いした際も、金融・財政などのマクロ経済には自信満々の方ですから立ち直りも早いはずです。「第十五回党大会(今年九月)で国有企業への株式制度導入を柱とするとう小平理論が中国共産党の指導思想となったことで、中国経済の発展を妨げていた“くびき”が取り払われた」と話す顔には、長老グループからの反発や圧力を受けることなく思う存分腕が振るえることへの自信がうかがえました。 今回の香港株式市場の大暴落については、香港返還にともなう一国二制度」の先行きへの政治的懸念、香港ドルを米ドルにリンクさせるペッグ制度への懸念など、種々の理由があげられています。 一部専門家の間では、株式制度を導入しても肝心の香港市場での資金調達が難しくなれば国有企業の近代化は難しく、中国経済のお先真っ暗との厳しい見方も出ています。株式制度導入についての彼の考え方の根本にあるのは、一つは「所有権と経営権の分離」、今一つは「国家と従業員の持株組合による公有制」です。所有権と経営権を分離させることにより、地方行政組織の介入を抑え、公有制により、企業の外国資本による支配を阻止するというものです。 特に外国資本による株式所有については神経をとがらせている感を受けました。「ロシアや東欧は資本主義経済システム導入後、すべてを市場にゆだねた結果、外国資本に牛耳られてしまった。この轍(てつ)は踏まない」と断言していました。国有企業近代化のための資金調達のすべてを株式市場に頼ろうとの考えはもともと頭にはなかったということでしょうか。 また、今回の世界規模となった大暴落の結果、経済が自国のみで成り立たないことを朱鎔基さんら中国首脳陣は認識すべきと評するむきもあります。これは彼を知らない人々の無責任な発言です。 知られていないエピソードがあります。今年初め、非公式にスイスでの有名なダボス会議に出席、並み居る世界各国の財界人は彼の該博かつ綿密な国際金融分析に舌を巻いたのです。
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