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著者: 山田 吉彦  
記事タイトル: 現代海賊はロビンフットか  
コラム名: マラッカ海峡の町から 第5回  
出版物名: 海上の友  
出版社名: (財)日本海事広報協会  
発行日: 2001/07/01  
※この記事は、著者と日本海事広報協会の許諾を得て転載したものです。
日本海事広報協会に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど日本海事広報協会の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  海賊は仲間の生活を支えるため富める船から略奪を行う

≪ 多発するマラッカ海峡の海賊 ≫

 二OOO年にマラッカ海峡で発生した海賊事件は、七十五件。

 海賊被害情報の取りまとめをしているIMB海賊情報センター(クアラルンプール)では、マレーシアが海賊警備を厳しくしているところから、犯人グループはインドネシア側にいると見ている。

 同センターのノエル・チョン所長は、「マラッカ海峡の海賊は、ロビンフッドのようだ。奪い取ったものを村落で分かち合い、暮らしの糧としている、村民に溶け込み守られ警察も手出しできない」と事態の奥の深さに対応を苦慮してる。

 マラッカ海峡内で海賊事件が多発しているのは、北緯1〜2度、東経101〜103度を囲む海域である。この場所は、昔マラッカ王国の中心地であったマラッカの街の沖合いである。

 近年、マラッカ海峡における海賊事件の発生は、シンガポール海峡の入リロフィリップチャンネル付近に集中していた。フィリップチャンネルは、浅瀬、岩礁が多いため航路が極めて狭く、船はスピードを落とし航行する。周囲には、隠れ家となる島陰も多く、海賊たちにはうってつけの海域である。

 しかし、昨年からマラッカ沖の事件が急速に増加している。マラッカ沖の海賊の特徴は、夜間高速ボートで近寄り、警戒のゆるい船を狙い船尾より侵入する。犯行は、およそ五〜六人のグループで、ロングナイフを武器として携行している。まれに挙銃を持っていたとの報告もある。事件は、一定時期に集中する傾向があり、一晩に複数の襲撃を行うことすらある。漁船に偽装し、夜な夜な獲物となる船を捜し、海峡内を動き回っている。

 昨年、マレーシアの海上警祭は、二組十一人の海賊グループを逮捕している。その全員がインドネシア人であった。

 

≪ 歴史から生まれた海賊 ≫

 なぜ、今になってマラッカ沖に海賊事件が多発しているのだろうか。

 マラッカ沖の海賊には、歴史がある。1511年マラッカ王国は、ポルトガルに武力征服され植民地とされた。その時一部の抵抗者が、インドネシア側の島々に逃げている。マラッカを後にした人々は、スマトラ島に隣接した島々に分かれて暮らし、漁労を申心とした「海の民」となった。目の前を我が物顔に行き来するヨーロッパの船を「海の民」はどんな思いでみていたのであろうか。自分たちの築き上げた国を奪っていった船に対して。マラッカ海賊のルーツは、レジスタンスであったとも考えられる。

 いつの頃からか、富を山積みにして行き交う欧州商船を襲うことをはじめた。彼らの心の中には、侵略者への抵抗の気持ちも含まれていたであろう。奪ったものは、彼らの仲間が生きるために使われた。現在出没しているマラッカ海賊の本拠地は、インドネシアのルパット島およびベンカリス島にあると見られる。まさに、十六世紀にマラッカから人々が移り住んだ地域だ。海賊たちの身体には、レジスタンスの血が脈々と流れ続けていたのだろう。

 今のインドネシアは、危機的状況である。薄氷の上に立つワヒド政権。軍人も警祭官も決まった給与すら支払われていない。治安を維持する力は、首都ジャカルタから遠く離れたマラッカ海峡までは届いていないようだ。不安定な政権の下で、経済も定まらない。海賊を発生させる要因がそろっている。

 海賊は、仲間の生活を支えるために彼らのシャーウッドの森(ロビンフッドの本拠地)である海峡の島から船を繰り出し、富める船から略奪を繰り返す。

 ロビンフッドは、国王リチャードと出会い、その人徳に触れ盗賊をやめ、王の配下となった。

 マラッカ海峡にリチャード王が現れることがあるのだろうか。

 ロビンフッドとマラッカ海賊は大きく違う。ロビンフッドは、悪代官を懲らしめ、貧欲な僧侶や領主たちから金を奪ったが、今の海賊は弱い商船ばかリを獲物としている。決して正義の士ではない。

 

≪ 海賊には自主警戒を ≫

 マラッカ海賊に襲われないためには、警戒が第一である。日本財団が実施したアンケー卜調査によると、明らかに警戒態勢をとっている船は襲われないというデータがある。海賊の活動を抑えるためには自主警戒は欠かせない。「備えあれば憂いなし」である。
 

IMB海賊情報センターのホームページへ  


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