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著者: 笹川 陽平  
記事タイトル: ゴルバチョフ元ソ連大統領 1)  
コラム名: 地球巷談 23  
出版物名: 産経新聞  
出版社名: 産経新聞社  
発行日: 1997/06/08  
※この記事は、著者と産経新聞社の許諾を得て転載したものです。
産経新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど産経新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
  来日時、墓参の約束果たす
 ゴルバチョフさんが今は消滅したソ連邦の大統領として来日したのは、一九九一年の四月。私が初めて彼に会ったのはその半年前、九〇年九月です。
 これにはひとつの伏線がありました。その一年前、当時大統領首席顧問で、「ペレストロイカの生みの親」といわれるヤコブレフさんが来日したときのことです。ソ連の深刻な注射器不足が話題になり、日本財団が急きょ、五十万本の注射器を送りました。このとき、ヤコブレフさんから沿海州、シベリア開発関連で経済使節団の派遣要請があり、私を団長に大手各企業を中心に五十人をこえる大型ミッションがハバロフスクからソ連入りしました。
 ウラジオストクでは軍港、ヤクート(現在のサハ共和国)では世界最大級のダイヤ露天掘り現場、モスクワでは最高機密のクルチャートフ原子力研究所の見学と破格の扱いでした。
 夜、食事をと外出する寸前、大統領府から連絡があり迎えの車が来ました。クレムリンの大統領執務室は、絵画などの装飾のたぐいは一切なし。机の横に十台ほどの電話が並んでいるだけの簡素な部屋でした。
 「あしき平等主義が社会の発展を阻害し、特に勤労者の労働意欲が衰退、事態は深刻だ」
 ゴルバチョフさんは少々疲れ気味に見えましたが、ペレストロイカ路線の推進には自信満々でした。
 私は「ソ連の経済改革は欧米より日本を参考にすべきだ」と戦後復興期の石炭や鉄鋼に重点を置いた傾斜生産政策などを例にあげ市場性経済への性急な改革が得策でないことを話しました。ゴルバチョフさんも日本の戦後経済復興政策については米国の経済学者フリードマン博士の著作などを通じ、かなりの知識を持っているように見えました。
 そして、私は、ソ連が日本兵を終戦後もシベリアに強制抑留し、しかも異国の地で亡くなった人々の身内の墓参も許さないことを指摘し、日本人の反ソ感情の厳しいことを説明すると、大統領は「日本外務省の精いっぱいの努力によるものだろう」と皮肉ってはいましたが、私はこの言葉に一種の虚勢を感じたものです。席上、私は大統領が近々来日するにあたって、途中、ハバロフスクかウラジオストクの日本兵士の墓地を訪れ、花を手向けてほしいと進言しました。
 「そのような建設的な意見は初めて聞いた。必ず実行する」と約束しました。話の最後に「日本人は客を大切にするが、客の土産もひそかに期待する」と北方領土問題をにおわせると、大統領は、呵呵大笑(かかたいしょう)。日本公式訪問の途中、私との約束を守ってくれました。
 



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