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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 家を探す?タイムリーな報道写真  
コラム名: 自分の顔相手の顔 265  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1999/08/24  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   八月十五日の日曜日に、アメリカではクリントン大統領夫妻と娘さんのチェルシーが、不動産を見に行ったというニュースがシンガポールの英字新聞に出た。ここのところ一家は、夫人のニューヨーク州からの上院議員出馬に備えて、選挙区内に住まいを作ろうとしているのである。
 先週ヒラリー夫人はエッジモントにあるコロニアル風の家を見に行った。百七十万ドル(一ドル=百十五円とすると一億九千五百五十万円)だという。
 最近の日曜日に一家が別の家を見に行った後には、二軒ないしは三軒に候補が絞られたと、CNNのニュースは報じたそうである。
 一家がまず立ち寄ったのはコネチカットの州境に近い屋敷で、そこは二百三十万ドル(二億六千四百五十万円)だという。
 候補に残った二軒の家の写真が、カラー・ページで出ているのだが、こういうものがほんとうのニュース性というものだろう。どちらも広々とした自然の趣を残した庭があり、大きな樹木の深い影が家にさしている。
 クリントン大統領がホワイトハウスを出るのは来年十一月。ヒラリー夫人が出馬するのも来年だから、それまでに一家はニューヨーク州の住人にならねばならないのである。夫人の出馬は、上院議員のダニエル・パトリック・モイニーハンが引退を決意したからだと解説されている。
 こういう一家が家を探すのは、私たちのように趣味と予算だけでは済まない。元大統領には生涯身辺警護のシークレット・サービスがつく。日本財団に勤めるようになってから、私は二度ほどカーター大統領を財団に迎えたが(財団はカーター財団と共同でアフリカで実質的な農業改革をしているのである)、やはり数人の警護の人が先乗りして来る。一度大統領とか首相になったら、一生気楽な生活はできない。私はそれを束縛と思うのだが、政治家はそれを権威と感じられるのだろう。おもしろい感覚の差である。
 クリントン一家の安全を守るためには、少なくとも一ヘクタール(一万平方メート)以上の土地を持つ家に住んでほしいというのが警備側の要求なのだそうだ。
 しかし外国の新聞は、カラーでこうした家の写真を出してくれるから楽しい。二軒の候補のうちどちらの家を買うのか、それとも全く違う家にするのか、もちろんまだ何も決まってはいないのだろうが、一体、大統領というような人はどの程度の家に住むのか、多くの人は関心があるだろう。
 日本の新聞にもこの写真は出たのかもしれないが、日本の報道写真は諸外国の新聞に出るものより一般的に言って最近とみにおもしろくない。ほんとうの理由は外部の私にはわからないが、自社のカメラマンが撮って来た写真でなんとかしようとするからではないかと邪推している。私が読んでいるシンガポールの「ザ・ストレイツ・タイムズ」などは、外国通信社の写真の中からおもしろいものをよりどり選んで買っているから、「読者の興味と、常識と礼儀の中間点」を、比校的無理なく選択できる。
 



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