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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: ステキな味?贅沢は自分のお金で  
コラム名: 自分の顔相手の顔 25  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1997/02/17  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   運輸省出身の前関西国際空港株式会社社長の汚職の実情なるものがマスコミで書き立てられたが、私はあまり信用していない。なぜなら前にも書いたことがあるが、風評というものはすべて正確ではないからである。
 ただ私が興味があるのは社長の「お楽しみ」が、カジノと女と料亭の接待だったという記事が出たことである。この社長に限らず、もし実際にこの記事に書かれたような人がいるとしたら、何てつまらない人なのだろう、という感じがしたのである。
 賭けについてだが、私は賭けはお酒と同じだと思っている。適当に飲めば(遊べば)ストレスの解消にもいいし、人生のおもしろさも深くなる。しかし度を過ごせば命取りである。
 地位や権力がある男が、金をやったり、自分の地位を利用した特権を見せびらかしたりして、女の心を引きつけることに関しては、およそ「ステキ」ではないことだろう。昔から言うことだろうけれど、男は金も地位もなくても、心根や、身のこなしや、独自の才能・能力で、女を引きつけるべきなのである。
 料亭やゴルフなどに招待をすることが、贈賄する側の一つの手口という話をここのところ、運輸省、厚生省などの高級官僚の関係した汚職事件の記事でさんざん読まされたが、お札の束が本命にしても、どうしてたかがゴルフや料亭の料理くらいで、いい気分になるのか、それも私には不思議でたまらない。
 自分の家の質素な食生活を棚に上げて言うようだけれど、料亭の料理など、多くの場合あまりおいしくはないものだと私は思っている。私が今でも記憶している「おいしかったもの」は、一塩のさばとか、わが家の畑で採ったソラマメとか、戦後に田舎の農家でごちそうになったじゃがいもの味噌汁とか、単純で精力に溢れたものばかりである。そして素朴で安価な献立だけれど、私はうちで毎日かなりおいしいものを食べていると思う。
 料亭の料理をおいしいと思うのは、料亭に行けた、という事実にこだわっている人で、味に煩い人ではないだろう、と思われる。
 おごりのゴルフを喜ぶのも情けない。人は楽しみを持つべきだが、道楽というものはすべて、自分のお金でするものだ。それが贅沢なのである。楽しみまで、仕事先でまかなってもらうなんて、どういう貧しい気持ちになれるのかなあ、と思う。そしてこういう貧しい楽しみに心を売る人が、実際にいるか、いると仮定しての話が世間で通用しているのを見ると、改めて変な気がするのである。
 霞が関には、実際にこの程度の平凡な俗物が多いか、実際にはそうでなくとも世間はそうなのだと思い込んでバカにしているか、どちらにせよ失礼な話なのだから、霞が関はうんとひがんで個性を取り戻さなければならないだろう。流行にせよ何にせよ、人と同じものを追求するようになったら、まちがいなくエリートではないのである。
 



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