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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 経営者?退職金を部分返還すべきだ  
コラム名: 自分の顔相手の顔 274  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1999/09/27  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   私の働く日本財団では、職員の外国出張の時、乗り継ぎなどに非常な不便がない限り、自国の飛行機に乗る申し合わせがある。別に「国産愛用」などという古めかしい思想ではないのだが、自国の産業を守り立てなくてどうなるか、と私は思うからだ。
 しかしそれでいい気になってもらっては困る。外国の飛行機会社のサービス競争は、恐ろしいくらい激しい。パソコンが使えるような電気の差し込み口を各座席に付けた航空会社は既にある。もう数年も前にこの話をした時、日本の航空会社はそれができない理由ばかりを述べ立てて、私はうんざりしたものであった。
 食事が実に美味しい。好きな時に食事が食べられる。映画やビデオの選択が多い。などなど、人の話を聞いていると、最近はそんなにサービスも変わったのかとびっくりする。
 先日フランスで会った或る日本の財界人はワル口仲間だが、食事の点で日本の飛行機には乗らない、という。私が「でもここへ来る時の飛行機のビフテキは美味しかったですよ」というと、「ソノさんみたいなのがいるから、日本の航空会社の飯はうまくならないんだ」と言われた。本当に私は、どこで何を食べてもおいしいのが、特技であり欠点なのである。
 しかし航空会社の経営者となると話は別だ。日本の航空会社の部長以上は、むしろ決して自国の飛行機に乗ってはならない。手分けして他社の飛行機に乗り、他社のサービスのいいところを、「スパイ」して来ることが任務だろう。自社の飛行機に乗れば、金がからず、社員は平身低頭してくれて威張って旅行ができる。そんなことをしているから、現実がわからない。孫子が、相手を知り、自分を知ってこそ、いかなる戦いにも勝てる、と言ったのもそのことなのである。
 私はもう十五年以上、或る会社のワープロを使っている。しかしこのワープロの漢字の変換のおかしなことは、いやになるほどだ。たとえば茹で卵の「硬さ」について書きたいとすると、こういう順序で出て来る。潟さ、方さ、型さ、肩さ、形さ、過多さ、それからやっと固さと硬さが出て来る。方さとか型さなどという単語はこの世にないのだから、漢字変換から消去すべきなのだ。
 故障を直しに来てくれた技術者に「お宅の代々の社長さんは、ワープロ、使えない方ばかりですね」と言ったら「いえいえ、そんなことはありません。自分で打っております」とかばっていたが、十五年の間に就任した歴代の社長が、自分でワープロが打てれば、こんなばかな変換(その他無数にある)を十五年以上も放置するはずはないのだ。秘書に打たせるから、私程度にワープロに馴れた秘書は、どんな欠陥機械でもそれなりに使いこなしてしまうのである。銀行の融資条件に厳密でなかった社長たちも悪いが、欠陥ワープロを十五年も放置した社長たち(複数)も退職金を部分返還すべきだと私など思ってしまう。
 



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