|
≪ 商業海賊の騒ぎが生活海賊を揺り起こしてしまった ≫
最近、マラッカ海峡で起こった海賊事件が、マスメディア報道されている。貿易物資の輸送の九九%を海上輸送に依存している日本にとって、海賊の出現は無視できない問題である。海賊問題を考えるにあたって、まず、現代の海賊事情を取りまとめてみたい。
(1)海賊被害の実態
IMB(国際商業会議所国際海事局)のまとめによると、二〇〇〇年に世界で発生した海賊被害の件数は、四百六十九件。そのうち東南アジア海域が、二百六十二件で実に五六%を占めている。そのなかでも際だって多いのはインドネシア沿岸の百十九件である。
IMBはICC(国際商業会議所)の海事部門で会員企業の求めに応じ一九九一年から国際的な海賊対策に取り組んでいる。
日本に影響を与える海賊としていちばん問題なのは、マラッカ海峡に出没する海賊グループであろう。一九九九年十月にアルミを積んだ日本の船社が所有する貨物船「アロンドラ・レインボー号」が、この海峡で海賊に襲われた事件は記憶に新しい。
(2)商業海賊と生活海賊
マラッカ海峡付近に出没する海賊は、大きく?商業海賊?生活海賊??に分けることができる。
? 商業海賊とは、「ア号」事件のように組織的計画に基づいて行動し、公海と複数の国の領海にまたがり、活動し、換金価値の高い獲物をねらう。シンジケートが存在し役割を分担し行動している。その役割には、獲物である船と積み荷を選定し、襲撃計画を作る情報グループ、実際に船に乗り込む襲撃グループ、船を持ち去る操船グループ、積み荷を売りさばく商品グループなど、いくつものグループに明確に区分されている。
? 生活海賊とは、昔ながらの海賊であリ、夜間航行中の船を襲い、金品を奪い逃げていく。生活海賊はおよそ五百年前からこの海峡で海の民として暮らしてきた人々である。彼らは日々の作業の中で漁と同じように海賊行為を働く。
(3)生活海賊の復活
二〇〇〇年にマラッカ海峡で起こった海賊事件の九五%は、生活海賊によるものである。商業海賊はこの一年間出没していない。「ア号」事件をはじめ、いくつかのハイジャック事件においては、各国の沿岸警備機関によリ奪った船が発見され、末端宮ループが逮捕されている。海賊家業は割のよい商売ではないのである。
しかし、商業海賊の起こした騒ぎは眠りについていた生活海賊を揺り起こしてしまった。一九九九年二件であったマラッカ海峡内の海賊事件は、二〇〇〇年には七十五件に跳ね上がっている。この海賊被害の多くが、マラッカ海峡の中心部、北緯二度・東経一〇二度付近に集中している。この海域は、昔から海賊の海として船乗りたちに恐れられてきた場所である。
マラッカ海峡内の海賊被害が急速に増えた原因のひとつには、インドネシアの長引く政情不安とよりひどくなっている貧困があげられる。生活に困った海峡の民は、祖先が生業としていた海賊家業に手を染めるようになっていった。
(4)海賊対策
二〇〇〇年から日本の海上保安庁が中心となりアジア諸国の沿岸警備機関の専門家による海賊対策会議が開催され、各国が積極的な対応をとるようになった。各国の情報連携による海賊グループの囲い込みは商業海賊の抑止には効果的である。マレーシアなどでは、海賊討伐隊が組織され、昨年も二組の海賊グループを逮捕するなど成果をあげている。
しかし、政情不安さめやらないインドネシアでは、海賊対策に効果をあげるほどの警備体制を組むことができない。また、マラッカ海峡インドネシア沿岸の海賊たちは、地域ぐるみの犯行であり捜査の手が届かないのが現状である。
では、この生活海賊への対策をどうしたらよいか、現状では、船側の自己警備が重要な役割を持っている。光を照らしたり、防犯装置を備えるなど、外から見ても明らかに警戒をしている船が襲われた報告はない。備えあれば憂いなし。インドネシアの経済に明るい兆しが見えるまで、自分のことは自分で守るしかないのである。
|