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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 偏った性格?適当にあしらう能力が欲しい  
コラム名: 自分の顔相手の顔 315  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 2000/03/01  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   例によって朝のテレビを聞きながら部屋の片づけをしていたら、どこかの大学の先生がやめさせられた、という話題であった。この人は学生に向かって「英語ができないと、娼婦になるぞ」とかいろいろと差別的な言葉を口にした。つまり非常識な教授だったらしいので、学校側はその人をやめさせた、というニュースである。
 このごろ、大学だけでなく教師に弱い人が多くなった。自分の昇進を妨げられたと思って、上司に当たる高校の校長先生の部屋に爆発物をしかけた教師の裁判が行われたというニュースも極く最近聞いたが、爆発物を使うから一見強そうに見えるが、実は性格が大変弱いから、暗い計画を練るのだ。
 どんな世の中になっても、必ず自分を正当に理解しない人はいる。自分を買いかぶってくれる人もたまにはいるし、自分をてっていして嫌う人もいる。自分が嫌われたり、憎まれたりしたら、そのままそっと放置しておいたらどうなのだろう。できれば、相手の心の平安のために遠のくくらいの気持ちがあってもいいとさえ思う。相手の心を改変させようと思うことくらいエネルギーの要ることはない。そっと逆らわないでいても、別に自分の本質が変わるわけではないのである。
 殊に、大学の先生になったら、かなりの偏った思想の人も受け入れていいと、私は思う。もちろん英語ができないと娼婦になる、などということはどう考えても現実的でないのだから(昔は外国人相手の娼婦の方がパンパン英語なるものを喋ったものだ)、その先生は知識も不正確だけれど、その教授をどう受け入れるかは学生が決めればいいことだと思う。
 やはりそんなトンチンカンな話ばかり聞かされるのはたまらないというなら、その教授の講義を取らなければいい。講義を聴く学生が少なくなれば、講義そのものも消滅する。自然淘汰である。でもこの人からは語学だけ習うのだから人格はどうでもいい、と割り切れるなら、こういう教授の講義で充分だ。そして下らない差別的表現が出てきたら「バカだなあ」と、その部分だけ内心で批判していればいいことなのである。
 大学は社会に出る準備をする所だ。社会にはさまざまな人がいる。その多様性に馴れ、それに自分なりに対処できる人間を作って社会に送り出さねばならない。テレビのコメンテーターたちは、いちようにこういう人は一番先生としての資格がない人だ、という受け取り方をしていた。
 しかしアレルギー、喘息、花粉症、アトピーなどという病気は、人間の体に雑菌が入らなくなったから、抵抗力を失って起きるようになったのだ、という説がある。抗菌グッズなどが一番いけないのだという。
 もちろん教師が、生徒を殺したり、性的な悪戯をしたり、弱点を喋り散らしたりしていいということではない。しかし法にふれない限りの偏った性格の教師も大学にはいて、大学生くらいになれば適当にあしらう能力もあって欲しいと思う。
 



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