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前大阪府知事、横山ノック氏のセクハラ問題が起きた後、私は毎日新聞に「誰もその場にい合わせなかったのだから、どちらも信じるわけにはいかない。古来、ユダヤでは、町中で男に犯された場合は、女は石打ちの刑で罰されたが、野原で犯された時には全くその罪を問われなかった。なぜなら助けを求められない状況の女性を責めてはならない、という旧約時代の考えがあったからだ。この女性も人里離れたところにいたのではないのだから、『キャア』と叫んでその場で大騒ぎができたはずだ」と書いてさんざん叩かれたらしい。私はインターネットを導入しないので、私を叩く記事も読めないのである。 その後、ノック氏が裁判で自分の非を認めたので、ことは解決してよかった。すると今度は私に謝れ、という人が出てきた。 私がセクハラをした当事者でもないのに、何を謝れというのだろうか。日本の一部の人たちを除いて、どこの国でも、知らない人は信じない、というのは当然のことだ。私はノック氏も女子学生も知らない。女子大生にいたっては、日本中名前も知らない。私が旅した中近東、アフリカ、南米、ヨーロッパ、どこでも知らない人の言うことを信じていたら、生きて帰ることもむずかしくなる。 ところが事件の起きた時、まだ裁判も始まらない前から、新聞も週刊誌も急にノック氏のことを「エロダコ」と呼び始めたので、私はびっくりしてしまった。マスコミも、大阪の人も、女性運動家も忘れているのかもしれないが、横山ノック氏は一九九九年四月の選挙の時、何と二百三十五万九百五十九票も獲得したのだ。もちろんその時行われた十二知事選のダントツである。東京都の石原知事だって百六十六万票余で、二位の鳩山邦夫氏は約その半分の八十五万票余を獲得した。ところがノック氏の次の鰺坂氏は九十二万票余で、ノック氏の得票数の半分にも満たなかった。 実に男性の六十七パーセント、女性にいたっては六十九パーセントがノック氏に投票した、と、一九九九年四月十三日付けの毎日新聞は報じている。数字で見ても、三人のうち二人がノック氏に投票したことになる。支持の理由で最も多かったのは「人物」で、四十三・三パーセントがノック氏に好感を持ったという。 私は「謝れ、謝らない」の論争が好きではないが、謝るとしたら私よりノック氏を支持した二百二十五万人の方ではないか。 しかし私は本気でそんなことを考えているのではないのだ。あの事件以後、大阪で知人やタクシーの運転手さんに聞くと「あれくらいのこと、ノックはやるやろと皆思うてたのと違いますか。ただ謝り方が悪い」という説が主流であった。大阪の人は「わけしり」だから、一般問題として、政治家は女癖が悪くても酒癖が悪くても(中央の政界にもそれらで有名な人がいる)政治力さえ発揮してくれたらいい、と思っていたのだろう。 しかし、大阪の有権者が二百三十五万人もノック氏に投票した事実は忘れてほしくない。
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