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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 「ダメったらダメ」の大切さ  
コラム名: 不正義との決別 42  
出版物名: 夕刊フジ(大阪)  
出版社名: 夕刊フジ  
発行日: 1997/12/04  
※この記事は、著者と夕刊フジの許諾を得て転載したものです。
夕刊フジに無断で複製、翻案、送信、頒布するなど夕刊フジの著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   失脚恐れるトップたち ルールに合わないものでも“裏”で…
 いつだったか、だれかがわたしに教えてくれた言葉があります。「失脚」というのは、文字通り足を失うこと、運転手付きの車がなくなることを指すんですってね。はっきり言って、トップはそれが怖いのではないでしょうか。
 わたしの場合は、はっきりしています。会社(日本財団)へ来るときは、資料の紙がたくさんあるので車を回してもらいますが、ふだんはうちの車とはっきりと分けているんです。
 一度手に入れた地位を失うのが怖いという気持ち、わたしにはそれがよくわかりません。わたしは今、四日間作家をやって三日間財団の仕事をするという生活です。財団の会長職は無給ですから、四日間作家をやって、ちゃんと収入を得るようにしないと、逆に「かげでこっそりもらっているんじゃないの?」と言われますからね。ただ、無給というのでは会長になり手がないから、やめるように働きかけようと思っていますが…。

 組織愛するとロクでもないことに
 変な言い方ですが、わたしは組織を決して愛さないようにしているんです。契約の期間だけは仕事しますが、終わったら次の人の自由にまかせる。わたしのいる間だけは私流にやる、ということです。組織を愛すると、ろくなことがないですからね。でも、男の人は組織を愛してしまうらしいですね。
 わたしは契約主義なんです。財団との契約書はないけれど、引き受けたからには言葉の契約をきちんと守らなければいけない。
 だから、その契約の間は一生懸命、財団にいいと思うことをする。でも、その次の人は次の人の選択ですから、わたしと反対路線を行ったとしても、わたしは何ひとつ心が痛まないと思いますよ。心も軽く去りますね。
 わたしは、人生でベストはできないと最初から思っています。ベストと思われることを見抜くような眼力もありませんしね。だからベターと思うことをやるしかない。ただ、わたしがベターと思うことをやっても、それは間違いかもしれません。その時はどうかご勘弁ください、という気持ちですね。

 代議士の依頼でも拒否できなければ会社はメチャクチャ
 それに、わたしはこの世界を全然知りませんから、いろいろなことに拒否ができる。一番大事なことは拒否できるということかもしれない。拒否できなかったら、組織はメチャメチャになるでしょうね。いろいろ裏があって、拒否できないような何かが発生しているのでしょうが、ウチの財団の場合は開示された条件に合わなければダメですから、ルールに合わないものは拒否できる。
 代議士さんのお頼みであろうと、以前からのしがらみの方であろうと、全部断れます。名刺広告も全廃しました。
 その時に、ある方からいいセリフを拝借したんですよ。「ダメったらダメ」。これは、すごく便利だった(笑い)。それから、プログラムの後ろに入れる広告とかも全廃しました。たちどころに相当なお金が浮きましたね。
 少し前も、当時の三塚大蔵大臣からお頼まれたしたことをウチはお断りしました。
 現職の大蔵大臣から頼まれたものを断るという例は、あまりないそうですね。その頼み事は、青少年を中国に連れていきたいという、ちゃんとした企画です。
 ただ、ウチは中国の医師たちを毎年百人ずつも教育するという大事業をしているから、申し訳ございませんが、それだけにさせてくださいと申し上げました。
 でも、三塚さんはちっともお怒りにはならず、その後もちゃんと普通に目をかけてくださっています。だから、断るときはちゃんと断らなければいけないのだと思います。  (談)
 



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