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著者: 曽野 綾子  
記事タイトル: 動物愛護?共存には賢さと辛抱がいる  
コラム名: 自分の顔相手の顔 260  
出版物名: 大阪新聞  
出版社名: 大阪新聞社  
発行日: 1999/08/09  
※この記事は、著者と大阪新聞社の許諾を得て転載したものです。
大阪新聞社に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど大阪新聞社の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。  
   ずっと昔、子供の時からの友達で、アメリカ人と結婚し、最近離婚したという人に再会したことがあった。
 彼女は西海岸で海の見える優雅な家に一人で暮らしていた。子供たちは、皆一人だちをした後で、それだけに淋しいと言えば淋しくて気の毒であった。しかし彼女はおおらかで優雅な性格だったので、運命に静かに耐えて決してぐちっぽいこともいわなかった。
 その虚しい生活の変化に馴れるまでの間、彼女は自分の住んでい町にある、イルカやジュゴンやアシカや象アザラシやラッコなどの保護センターにボランティアに行っていた、と話してくれた。
 こうした海洋動物たちは、しばしば波うち際に傷ついてうちあげられる。すると見つけた市民から通報が行き、センターの専門職員たちが、引き取りにかけつける。「毛布を持って行くのよ」と言ったような気がするが、とにかく彼女のような素人には、決して手を出させないのだそうである。
 それというのも、動物たちは、悪い病気をもっていることもあるし、傷ついて凶暴になっていると人間を襲う恐れがないとは言えない。だから訓練を受けていない人は全く近寄らせないのである。
 私の友人のような人は、動物の餌作りを手伝っている。いずれは海に返す動物たちだが、仮初めの「入院患者」のための餌はかなりの量になって、いつもボランティアが求められている。彼女はそこで生きがいを見つけ、語り合う友達もできた。
 七月七日の朝日新聞には、野生のイルカに噛みつかれる例が増えているので、米海洋大気局は、イルカに餌をやったりいっしょに泳いだりせず、遠くから見ることを勧め出したというニュースが出ていた。
 今は動物を擬人化することがはやる。シカは皆人間の言葉を喋るバンビちゃんだと思う。うまく撮影した犬の映画を見ると、強盗が入っても犬が防いでくれるだろうと考える。もちろん犬や猫が火事を教えたという例はよく聞くが、それでも動物と人間が共存するには、少しばかり賢さやしんぼうがいる。
 東京の麻布界隈にサルが出没する、というニュースが伝わっているが、これももしかすると大変に困ったことである。サルの食害はひどい。シカもイノシシもまだしも防ぎようはあるが、サルが出だしたら明日の朝採ろうと思っていたキヌサヤインゲンを、夜明け前にすべて食べられてしまう、という怒りの声をよく農家の方たちから聞く。
 私の庭のキヌサヤなら趣味の範囲で作っているのだから、サルに取られても生活を脅かされるわけではないが、それでも丹精して作った作物を取り入れの直前に取られたら意欲は失われる。
 アフリカの国で農業が発達しないのは、一つには収穫の直前にあらいざらい盗まれる国が多いからだ。動物愛護も必要だが、人間の方が大切だ、という当たり前のことを言わねばならない時代になって来た。
 



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