(11)国際海事大学連合の設立
近年、国際海運はさまざまな経済活動の中でも最もグローバル化が進展している分野であり、国際的な単一市場で激しい競争が繰り広げられている。日本財団が2000年に実施した「日本の外航海運の現況に関する調査」では、日本の外航海運業も生き残りをかけてコスト削減を行ってきた結果、我が国の貿易立国に重要な役割を果している日本商船隊の船員の9割が外国人という実態が明らかになった。
我が国のみならず世界的に見ても、国籍の違う船員の混乗や船籍国とは異なる国の船員による運航が常態化し、また船員の供給源が先進国から途上国等へと急速に移りつつあるなど、安全運航の重要な人的ファクターである船員について大きな変化が訪れている。
この変化に対応して船舶の安全運航を確保するために、世界的に見て教育内容に大きなばらつきのある船員教育・訓練の均質化とそのレベルアップに対する本格的な取り組みが求められている。
こうした状況の中で、学術的・科学的アプローチによる世界の海上交通の安全性向上と国際海事社会の安全管理の構築、並びに世界的な海事・商船大学のネットワークの確立を目的として、2000年6月に本財団が主導となり国際海事大学連合(IAMU:International Association of Maritime Universities)が設立され、トルコのイスタンブールで創立総会が開催された。世界で初めての海事関係大学による国際ネットワークである。
本連合は、海事教育に関する大学院課程を有する海事大学をメンバーとし、
1)21世紀の望ましい船員教育訓練システムの構築とその資格制度のグローバル化
2)陸上からの安全管理を担う技術者の育成、安全管理技術者の資格制度の確立
など、具体的目標に向けて共同研究を行うこととしている。
2002年現在、本連合には世界トップレベルに位置する34の海事大学が参加しているが、参加を希望する大学は後を絶たない。
その設立から2年が経過し、具体的成果を目指すためのプロジェクト制の導入、研究成果の試行を兼ねた学生プログラムの開始、実質的活動に向けての共通認識を深め、組織としての足場固めが終了した。加速の時期に差しかかった本連合の活動が、今後、世界が目指すべき船員教育や安全管理の新しい仕組みを創る契機となることが期待されている。
国際海事大学連合の創立総会(トルコ共和国・イスタンブール)
第2回国際海事大学連合総会(神戸)
(12)開発途上国における海事専門家の育成 〜世界海事大学
海事問題に関する国連の専門機関である国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)は、海上安全、海洋汚染の防止等に関する技術的および法律的問題の検討、調整を行い、海上人命安全条約、船舶による汚染防止のための条約、海洋投棄規制条約、STCW条約など、さまざまな国際条約の改正・制定を行ってきた。しかし、多くの加盟国、特に開発途上国ではこれらの条約を施行する専門的知識、技能を有する要員が不足しており、このための人材育成が緊急の課題となっていた。
このため、IMOは、主に開発途上国の海事関係者に対して実務的な海事知識の教育と訓練を行うために、1983年、スウェーデンのマルメ市に大学院大学として世界海事大学(WMU:World Maritime University)を設立した。
日本財団は、開発途上国の海事関係者がWMUで学べる環境を整えるために、1987年から奨学金「笹川フェローシップ」の提供を開始した。今日ではアジア太平洋地域の開発途上国を中心に毎年50名の学生に奨学金を提供しており、その卒業生は36カ国、200名を超えている。
奨学生は卒業後、自国に戻り、海事関係の上級行政官、海事教育訓練機関の指導者、港湾・海運関係の専門家として責任ある指導的役割を担っており、開発途上国の海事関係者の養成は着実に成果を挙げている。
この奨学事業の運営は、1997年に笹川平和財団から国際研究奨学財団(1999年、東京財団に名称変更)、さらに2001年に東京財団から(財)シップ・アンド・オーシャン財団へと引き継がれた。(財)シップ・アンド・オーシャン財団では、笹川フェローの同窓生のネットワークを構築し、同窓生のコミュニケーションを深め、人材育成と人的交流を推進するとともに、同窓生による海事関係プログラムの開発を指導している。
さらに、本財団では、WMUが運営体制の強化、教育・研究内容の充実、博士課程の導入等により、国際的に認知される大学院大学へと一層の拡充を図ることを支援して、2002年に日本財団寄付講座「The Nippon Foundation Chairs」として、海事行政、海洋環境マネジメント、海事工学の3つの講座をWMUに設置することを決定した。
世界海事大学の授業の様子
世界海事大学の卒業式
(13)21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言
国連海洋法条約の発効や、リオデジャネイロの地球サミットでの持続可能な開発宣言により、世界各国は海洋と沿岸域の総合的管理に熱心に取り組み始めている。しかし、日本では依然として海洋に関する行政は多数の省庁が縦割で行っており、新しい海洋秩序に基づいてこれらを総合的に管理する明確な海洋政策が策定されていない。
四方を海に囲まれた我が国が海からさまざまな恩恵を受けていることは、多種多様な海の幸を食する日本人の食生活や貿易立国により驚異的な発展を遂げた経済などを思い浮かべるだけで、自ずから明らかである。
特に、地球規模の交易が空前の発達を遂げた21世紀には、世界の海が産する生物資源、鉱物資源と、これらを大量輸送する海上交通をはじめとして、海洋に対する依存度はますます高まる。海洋は、我が国の発展の基盤である。このままでは日本は、海洋の開発、利用、保全を全体として総合的に管理する海洋管理の世界的な取り組みから取り残される恐れがある。
日本財団は、これら海洋問題の重要性に着目し、有識者からなる「海洋管理研究会」を2000年に設置した。2年間にわたり諸外国の海洋政策の研究、内外の海洋関係機関との意見交換、研究者、行政、メディア関係者などによる研究セミナーの開催などを行い、我が国の海洋政策のあり方についての議論を深めてきた。
さらに、2001年末には400名を超える研究者、政策・行政担当者、民間海洋関係者、メディア関係者等に「海洋政策に関するアンケート調査」を実施し、海洋政策のあり方を探った。
海洋管理研究会は、最終的にその研究成果を次の6つの提言に取りまとめて、「21世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言」として2002年3月に発表した。
提言1:総合的な海洋政策の策定
提言2:海洋政策策定、実行のための行政機構の整備
提言3:総合的沿岸域管理の法制整備
提言4:水産資源の合理的管理、漁業と他の海洋利用との調整
提言5:排他的経済水域(EEZ)および大陸棚の総合的管理の具体化
提言6:海洋に関する青少年教育および学際的教育・研究の充実
これらの提言は、国会・政府の政策策定者、海洋関係省庁をはじめ海洋に関係する各界、さらに一般に周知され、海洋政策の重要性の認識を深めるとともに、我が国の海洋問題に対する取り組みに大きな影響を与えた。
21世紀におけるわが国の海洋政策に関するアンケート調査報告書と提言
造船関係貸付事業
貸付事業における融資対象者である中小造船関係事業者は、同業種の国際競争の激化と内航船・漁船の受注の減少および船価の低迷など、厳しい経営環境に置かれており、生き残りをかけ、鋭意努力を続けている。
このような中小造船関係事業者を支えている金融機関は未曾有のデフレの下、ペイオフの本番を迎え、融資姿勢を従来以上に厳しくしている。
中小造船関係事業者にとって長期資金の基本は、金融機関のプロパー資金による融資よりも金利の低利な日本財団の貸付金に依存する傾向になっており、造船貸付事業への期待度は大きくなっている。
本財団は、設立以来一貫して中小造船関係事業者へ貸付けを行ってきたが、このような現状を踏まえ、今後も積極的に資金の安定的な供給を行い、経営基盤強化に資するところである。
本財団が設立された1962年以来、中小造船関係事業の振興のため、造船関係事業者に金融機関を通じて安定的に融資を行う貸付制度は、直接の貸付先である金融機関が経営的に行き詰まることなど全く予想されていなかった。このため、1997年11月頃、金融情勢の不安が一挙に現実のものとなったとき、貸付金債権の保全が緊急かつ重要な課題となった。
そこで、同時期に貸付業務規程の一部改訂を行うこととし、それまでの「借用証書」の締結から「金銭消費貸借契約証書」の締結に改め、その条項に金融機関が不測の事態に陥った際には、本財団からの請求により、貸付先である金融機関の借入債務に関わる「期限の利益の喪失」をさせることができるようにした。また、融資先である造船関係事業者に貸付先金融機関の債務について連帯保証を求めるというように、貸付債権の保全を図る仕組みを取り入れ、1998年度から適用した。
業務体制の改善に伴う見直しの中で、従来の海洋船舶部の貸付課から金融機関との取引が主たる業務の経理部財務課がその職制の中で貸付事業を実施した方がよいとの判断から1999年度から取り扱い部署の変更を行った。
造船関係貸付事業数と金額の推移
年度 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
件数 |
1,401 |
1,257 |
1,238 |
993 |
844 |
729 |
778 |
699 |
638 |
595 |
金額 |
6,432,680 |
5,799,740 |
6,145,320 |
6,429,720 |
6,331,980 |
6,009,370 |
6,719,610 |
6,304,780 |
5,743,700 |
5,886,630 |
(造船業) |
件数 |
315 |
275 |
274 |
210 |
171 |
141 |
147 |
137 |
119 |
120 |
金額 |
2,021,840 |
1,708,770 |
1,726,350 |
1,726,170 |
1,687,280 |
1,719,070 |
1,955,880 |
1,739,260 |
1,530,780 |
1,721,430 |
(関連工業) |
件数 |
1,086 |
982 |
964 |
783 |
673 |
588 |
631 |
562 |
519 |
475 |
金額 |
4,410,840 |
4,090,970 |
4,418,970 |
4,703,550 |
4,644,700 |
4,290,300 |
4,763,730 |
4,565,520 |
4,212,920 |
4,165,200 |
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1992年度から、競艇事業の近代化に資する施設の整備を行う者に融資するため、(財)モーターボート競走近代化研究センター(※1)に対して資金の貸付けを行った。その後、公営競技を取り巻く環境の変化に伴い、場外舟券売り場(ボートピア)の設置、電話投票の拡大など売上向上の諸施策が積極的に推進されており、相当な資金需要が見込まれている。
そこで、1998年度には、それまで本財団が造成してきた近代化関係基金を取り崩し、今後拡大するであろう施設等の整備に必要な資金を効率的に貸付けるために、同センターに「モーターボート競走高度情報化基金」として基金を移管した。
2001年度には、同センターに対して、全国モーターボート競走施行者協議会、(社)全国モーターボート競走会連合会、本財団を中心として策定された「競艇躍進計画」の推進に必要な資金として、「モーターボート競走高度情報化基金」に追加助成を行った。
※1 (財)モーターボート競走近代化研究センター:1997年に「(財)競艇情報化センター」に名称変更。
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