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理事長 2002/05/31 ハンセン病撲滅の悲願へ

WHO(世界保健機関)のハンセン病制圧特別大使として東奔西走ですね。
この1年有余の間に日本全国の13の国立療養所、2つの私立病院を回り、外国はインド、ブラジル、韓国に行ってきました。これにはふたつ目的がありまして、ひとつはとにかく2005年までにハンセン病を制圧したいということ。こういう仕事は第一線に立って最先端まで行くことが重要なのです。ですから、ブラジルはアマゾンの奥地まで入りました。

世界にはハンセン病のほかに結核とかエイズとかマラリアなど大きな問題がいっぱいありますが、これらの問題は先が見えない。どれだけやっても効果がわからなかったり、エイズのようにふえるものもある。ところが、ハンセン病は確実に患者が減っていく。私たちが考えたのは数値目標の設定で、これは国際らい学会会長の湯浅洋博士が「人口1万人に患者1人以下」という目標を定めてくださり、WHOの制圧目標に掲げられたので、これでいこうということになりました。

2000年末時点で世界の総人口に対しては制圧目標に達したのですが、国レベルでみると、インド、ブラジル、ミャンマー、ネパール、マダガスカル、モザンビークの6か国が未達成国として残りました。これらの国へは私が全部行きます。

国内15カ所の療養所で献花をした笹川理事長

国内15カ所の療養所で献花をした笹川理事長

僻地の施設を訪問し患者さんを激励

僻地の施設を訪問し患者さんを激励

目標達成の見通しは。
05年までに、という目標を達成できると思っています。ブラジルは大統領をはじめみな気合が入ってますから、うまくいきます。ミャンマーも来年には達成できそうです。
来年1月の国際会議をミャンマーで開くことに決めました。アウンサンスーチーさんが解放された新しいミャンマーを、外国の人に見てもらういい機会になると思います。ミャンマーには笹川記念保健協力財団が、これまでに患者に薬を届けるための自転車を1000台、今年も1000台寄付することにしました。

これには余談がありましてね。「新品の自転車ではなく、日本の自治体は放置自転車の処理に困っているのだから、その有効利用をしたらどうか」と言って、日本財団のボランティア支援部に調べさせたんです。そうしたら、すでに贈ったのは新品で8千円なのに、放置自転車をただでもらっても、修理して赤く塗るのに1台1万円以上になるというんです。ミャンマーの看護婦さんは、白衣ではなく赤いロンジー(スカート)ですから、贈る自転車は郵便屋さんのように赤く塗るんです。

新品の自転車がそんなに安く。
中国製です。ぼくの考えの方がまちがってました。2千台の赤い自転車で看護婦さんたちがすみずみまで薬を届けてくれますから、ミャンマーも大丈夫でしょうね。再来年、ミャンマーの次の国際会議はモザンビークでやりますので、これもいいでしょう。

インドは世界の患者の70%を占めていますが、今度行きましたら、制圧への機運が非常に盛り上がりました。ハンセン病は本来南の病気なのですが、どういうわけかビハールなど北の7州に多いのです。
6月初めにインドの制圧を目指して「東京ミーティング」を開きました。インド政府保健大臣をはじめ、患者の多い7州の保健次官や現地の支援NGOの代表が集い、現状や対策を熱心に討議しました。

残りのネパールですが、毛沢東主義者のゲリラ活動で不穏な空気がありますが、9月初めに最先端まで行こうと思っています。マダガスカルだけが問題なのです。大統領が2人いるという状態ですから。

財団ビルで開催された東京ミーティング

財団ビルで開催された東京ミーティング

韓国の療養所を慰問

韓国の療養所を慰問

5月にいかれた韓国はどうですか。
韓国は進んでいますね、世界一でしょう。らい予防法を廃止したのが日本より15年も前ですから。日本統治下には過酷な隔離の歴史がありますが、朴大統領のときに社会での自立を目的とした「定着村」を作りました。現在88カ所にもなります。
うちの曽野会長が支援されたラザロ圓の神父さんら先覚者がいたのでしょうが、偉いのは朴大統領のお嬢さん槿恵(クンヘ)さん。大統領候補にもなっていますが、彼女が、患者が鶏を飼って玉子を作っても誰も買ってくれない、それでお父さんに「軍隊で使ってください」と頼んだ。軍隊で強制的に使わせてから、一般の人も使うようになり、患者さんが養鶏や野菜栽培で食べていけるようになったわけです。

日本では貞明皇后をはじめ皇室が救らい事業に深い理解を示されてきましたが、今度療養所を回って本当に頭が下がったのは高松宮両殿下です。その足跡のないところはありません。それも度々いらしているんですね。

患者さんと談話する平沢さん

患者さんと談話する平沢さん

韓国へは日本の回復者といらしたそうですね。
多摩全生園の自治会長、平沢保治さんら3名の回復者の方々とご一緒しました。それはWHOの目的は制圧ですが、私は最終的には新しい患者を零にし、なおかつ患者・回復者の尊厳と人権を回復してこそ撲滅した、と言えるのだと考えています。われわれは撲滅までやらなければなりません。

日本ではハンセン病に対する迫害と差別は「負の歴史として国民に残す必要がある」と言います。ところが韓国では「私たち一代で負の歴史はすべて消します。後に残してはいけない」と言うんです。こうした違いはありますが、回復者同士の世界的ネットワークを作り、情報交換をし交流することが撲滅への道だと考えています。

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