航海の安全確保には危険な点検作業が伴う
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今回は期せずして海に関するものがそろいました。まず、あまり耳慣れない設標船から。
2代目の設標船「ペドマン号」をマレーシア政府に引き渡しました。笹川理事長が引渡式にいらして、現地や日本のマスコミもみえ、大勢の方がとても喜んでくださったんです。私もうれしかったですね。というのは、この船をオーダーした新潟鉄工が倒産したという報道があったんです。どうなることかと思ったんですけど、一月遅れできちんとできたんです。
私、6月の引渡式には出られなかったので、この間見にいきました。よく自動車が道にある三角帽子、カラーコーンというんですか、あれ倒していくでしょう。あんなのつぶしてもいいや、と。当て逃げって、わざとじゃないんだけど、航路の浮標も同じなのね。私はスカートといってるんですけど、プロテクターを引っ掛けたり、本体まで壊していくんですね。そうするとビーコンが出なくなったり、明かりが点かなくなったり、それぞれのブイが独特の形を持っているので、そのうちの一つの色や羽根がとれたり、なくなると標識の認定が難しくなり、事故が起きるんです。それを設標船で地道に一つ一つ直していくんですね。大変な作業なんです。
マラッカ・シンガポール海峡は年間6万隻の船が往来する狭くて浅瀬の多い難所で、そこを日本の油槽船の80%が通ります。それで初代「ペドマン号」も日本財団が造ったようですよ。もう25年も使って古くなったんです。船名のペドマンはマレー語で羅針盤という意味なんです。
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特殊な船だと高いんでしょうね。
装備品をふくめて7億8千万円で、全額日本財団が出しました。903トン、全長54.5、幅10.8メートルで定員36人です。機関は800馬力の中速ディーゼル2基で、速力は最大13.3ノット、巡航速度は10.5ノットくらいで、あまり速くないんです。速度を速く設定すると燃費が悪くなるのです。航路標識の整備・点検作業をするという単独目的に照らして、非常に合目的で質素な面があるんですね。でも、オフィサー以上は全部シャワー・トイレ付の個室なんですよ。そうしたら、日本で長く海に携わっていた方が言うんです、立派な個室からはいい船員は育たない、ですって。私は今度、実際に作業をみせていただきましたが、みなさん日本はいい船をくれた、と喜ばれていました。
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ペドマン(マレー語で羅針盤を意味する)
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海の安全はみんなの力で |
次は防人ならぬ「海守」。ネーミングがいいですね。広辞苑にはありませんが。
私、恥ずかしい話ですが海に「118番」があること知らなかったんです。海上保安庁が2年前から、警察の110番、消防の119番に対応する「海の『もしも』は118番」を運用しているんですね。海難人身事故、海洋汚染、不審船、密航・密輸などの民間からの通報を呼び掛けています。年間80万件以上の電話があるそうですが、間違いやいたずらが99%なんですって。去年の暮れには不審船の銃撃、自爆。今年の1月の江ノ島の悪質ないたずら通報で、海保や警察が振り回されたでしょう。これがきっかけですが、海守(うみもり)10万人という構想は随分前からあったのです。
私が素人ながら思ったのは、淋しい半島の先で雑貨屋をやっている。インスタントラーメンも煙草もパンも売っている。そこになんとなくおかしい2人連れが買いに来る。知らん顔してパンを売って、これから私はどこの誰です、と名乗って通報する。後は専門家の調査に任せる。つまり警防団みたいなもの。これは一番無駄がなくて安全ですね。
それで通報者を登録しておく制度をつくる。登録するのは海のプロ、漁業者や港湾関係者や海辺に住んでいる人たちですね。
今どきあの手の舟は出ないとか、この時期にはおかしいとか、ああ言う格好のは有り得ないとか。専門家の目を持ってらっしゃるでしょうから、その知識をお国のために使っていただきたいということなのです。
日本海で密航者を捕まえたグループを去年、社会貢献支援財団が表彰して100万円差し上げました。そのとき「法を守って密航者達にお帰りいただくのと、その人達にやさしくあるということは両立します。今度密航者を捕まえたら、このお金でパンを買ってあげてください」って言ったんです。そうしたら「これだけあればアンパン相当買えますね」と言って下さった。アンパンを差し入れして、ユニクロの古いのでも着せて、やさしくして帰してあげたらいいではないですか。
今年度中にはスタートすることになっています。通報者は判別のプロ、通報を受けた側は調査のプロ、プロ同士がきちんと連携を保ってどういう成果が挙がるか、どういう問題が起きるか。私は人間のすることって全部試行錯誤で、やってみないとわからないことがあると思っています。ですから、1年目、2年目と日本財団が問題点をまとめ関係者の協力を得て改善していく。海守は大きな仕事で、とても楽しみです。
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最後は恒例になった国際海事大学連合の総会ですね。
去年は日本で開きましたが、今年はアメリカのメーン大学です。うれしいことに年々参加校が増えて35大学・機関になりました。いまや海というのはつながりがなければどうにもならない、という必然性があるんですね。これは別の言い方をすると、グローバリズムです。観念的グローバリズムってなんだかよくわかりませんけど、職業的グローバリズムは非常に有効なんですね。一定の責任在る教育機関の責任者が毎年集まって、具体的な問題点を話し合って解決を図る。こういうことに日本財団がお金を出すのはとてもいいことだと思っています。
海というのは非常に冷静な安全の確保、これが一国のみならず、もう少し先の地域まである、ということを知っている人たちが集まるんですね。ですが、私はやはり経済的、つまり金もうけとつながった認識がちょっと必要だと思うんですよ。理念だけでは弱い気がします。それと理念が助け合わなければならないというところがあるでしょう。ですから、二つ合わさるとものと金の面の安全もあるし、もっと別の生命、肉体、精神というものの安全にもつながりますね。もっと言えば国際理解に有無を言わさず到達すると思うんですよ。
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