日本財団 図書館


3)図書館伝統文化の維持
 図書館の伝統文化とは何か?文化という言葉を字面から定義すると、「人類が創造した富の総和、特に、精神的な富。文学、芸術、教育、科学など」ということになる。では、図書館の伝統文化とは何かというと、図書館の誕生以来、近代図書館が生まれてから情報化が図書館に影響を与えるようになるまでの間に、図書館が読者ニーズの満足について形成してきた一種の精神を指す。この精神は読者の図書館に対するイメージとなり、図書館の人が代表する一種の理念で、精神を奮い立たせる動力の一つである。したがって、図書館の伝統文化とは、最大多数の読者のニーズを満たし、必要とされる文献資料をできる限り収集、開発、提供することだとまとめられる。こんにち、情報化が進んでいるにしても、この理念は過去のものとなってはいない。相当に長い期間は過去のものとならないだろう。この点で、日本の大学図書館はとてもよくできている。
 日本の大学図書館は読者ニーズを満足する方面において、実際的に取り組んでいる。館内のいたるところに十分な数のOPAC検索端末があるだけでなく、各種図書館利用ガイド、合理的で分かりやすい図書館レイアウト図などが作られている。だいたい最も分かりやすい位置に相談カウンターがあり、第一線の相談係や専門職員がいる。専門の学生討論室、学習室も備えている。どの図書館へ行ってもこうしたものを見ることができるということは、この国の図書館の発展は基本的に成熟段階まで到達していることの説明である。それに比べ、中国の大学図書館ではこうした設備が整っておらず、レベルの高さを追求しようとするあまり、基礎サービスがおろそかになっている。図書館の発展は始終その基礎と切り離せるものではない。基礎とは読者のニーズを満たすことである。読者のニーズを満たすことができ、かつ大衆のニーズに対して絶えず革新していくことだけが唯一の出口であろう。
 基本的ニーズを満たすと同時に、日本の図書館は図書館の発展についても追求しており、先進国の発展傾向の特徴も少なからず備えている。
[1]大学図書館を開放により、社会にもサービスをしている
 大学図書館の対外開放は、大学周辺の地域社会に知識の面で新しい貢献ができる。現在、多くの国公立大学図書館で対外開放が実施されている。大学図書館を一般市民に開放すると以下のメリットがある。
・大学の文化的財産を有効利用できる。
・私立大学が外部に大学設備を開放すると、文部科学省から多くの給付金を受けられる。
・大学の宣伝に有効で、大学の社会的評価を高めることができる。
 私立大学図書館の対外開放について、一部の図書館では外部利用者から利用料を取っている(1年間で約6000円、関西学院大学、上智大学など)。
 私たちが参観した芝浦工業大学はフェンスがなく、数棟のビルでできており、守衛もいない。誰でも出入りができる。私たちには想像のつかないことである。
[2]公共学習室(Learning Commons)の普及
 公共学習室とは、図書館が共同学習のために提供するスペースのことで、ネットワーク時代のサービスを学習に提供する場であり、とても目を引く。「Commons」の意味は、「共有」、「共同」、「公共」である。これは90年代に米国の大学図書館が採用し始めた方式である。ネットワークが普及し、図書館自身の存続が難しくなるといった問題が表れ、図書館へ行く読者が減少してきたため、図書館が危機感を覚えた。こうした問題を解決するため、1992年にアイオワ大学が図書館内に情報アーケードを設立した。南カリフォルニア大学の図書館には情報共同利用室といった名称の異なる公共空間が作られた。こうした方法の採用によって、これらの大学の図書館利用者数は上昇に転じた。これらのスペースでは、コンピュータを使用したり、グループ学習や討論したりすることができる。同時に、図書館の使用規定にもこれらのスペースでは会話を禁じないと明文化されている。
 日本では、ネットワークの普及により、多くの図書館で利用者数が減少している。このような危機を意識し、日本の大学図書館や新設の図書館の中には、こうした公共空間を増設するところが多くなってきた。例えば、武蔵工業大学のメディアライブラリーや、国際キリスト教大学などでは、図書館のオープンスペースに120台の学習用PCと3つの公共学習室、視聴覚室を備えている。これらのスペースには書架がなく、共同学習の場所として提供されている。
[3]図書館の機関リポジトリー(Institutional Repository)作用を発揮し、発展の余地を確保
 機関リポジトリーの概念は実際のところ、大学や各種研究機関に特有の研究成果を表現する施設の一つである。研究資料リポジトリーは大学などの学術機関がその研究成果を電子データ形式で保存し、ネットワークを通じて機関内外のシステムに送信する。具体的な方法は、教職員が学術雑誌で発表した成果などのコンテンツを図書館が収集し、大学内外の読者の利用に供するというものである。
 このようなシステムは、主に大学で生み出された知識を蓄積するためのもので、誰でも無料で学術論文を閲覧できる一種の公開閲覧の理念に基づくものである。具体的な実施時、どのようにして教員に論文を登録させるかなどを含め、図書館は新しい情報収集メカニズムを作る必要がある。同時に、まだ著作権を持っている出版社にその使用手続きをする必要もある。
 日本では2005年から、東京大学、千葉大学、北海道大学、早稲田大学など19大学で試行が始まっており、こうした研究資料リポジトリーシステムの運用が始まっている。これらの大学では各大学の論文、論文のプレプリント、実験データ、教材、ソフトウェアなどの学術情報を蓄積、保存し、ネットワーク経由で学内外の読者へ無償提供する試みが行われている。
 上述したように、日本の大学図書館の伝統と革新はいずれも優れており、図書館の発展傾向にも合っている。現代の先進国にある大学図書館の発展モデルの一つでもある。中国全体について言うと、中国は未だに発展中の国であり、その図書館も大学と同様、発展段階にある。従って、先進国の大学図書館を参考にするのは疑いなく正しい道である。
[4]アウトソーシング市場の成熟
 日本の大学図書館では正規職員が少ない。労働力の逼迫や人件費の高さとかなり関係するものだが、日本は他の先進国と同様、アウトソーシング形式を採用して対応している。日本のアウトソーシング市場は割と成熟しており、専門のアウトソーサーが活躍している。図書館の人的資源問題を解決するいい方法の一つであることは疑いない。解決方法の一つが特定業務のアウトソーシングであり、もう一つが特定の職位を専門のアウトソーサーに手配させるというものである。ある大学では、全部の業務を専門会社にアウトソーシングし、人力を大幅にカットした。同時に、いくつかの職位では契約職員を採用している。そこで、彼らは専門人材会社に契約職員15名の紹介を委託した。
 アウトソーシングは日本の図書館では広く採用されている。国会図書館以外の図書館は、人員編成において基本的にアウトソーシングを行っている。しかし国会図書館は国の図書館であるため、その編成は標準的なものだ。したがって、国会図書館の人員編成は膨大なものである。しかし、契約職員の使用については各館とも同様である。
4. 考察した点
(1)図書館が守るべきものは何か?
 情報化の衝撃により、伝統的な図書館の蔵書からサービス形式にまで変化が現れた。変化の内容によっては巨大なものや本質的なものがあるため、これらの変化に適応するプロセスの中からある発想法が出てきた。ある人はリソースに着目し、図書館は各種メディアの情報リソースを網羅すべきだと捉えた。CD-ROM、ハードディスク、視聴覚資料などだけでなく、インターネット上のリソースも含める必要がある。ある人はサービスに着目し、情報化時代の図書館にとってのベンチマークはサービスのデジタル化とネットワーク化であると捉えた。サーチエンジンを多く持つという意味である。またある人は図書館の地位に着目し、情報化を図書館にとって初めての一大好機だと捉えた。この機会に新しい道具―検索を把握し、科学研究の前提手段にできるようにした。これらは全て、方式も使用法も優れている。いずれも図書館が情報化に適応するためのある種の変化だ。しかし、これらの効果を一面的に追求したり誇大宣伝したりするのは本末転倒になる危険がある。
 図書館は結局のところインターネットではない。両者の機能、目的および社会での目的は完全に異なるものなのだ。図書館はサーチエンジンでもない。図書館機能の効用のほうが遥かに勝っている。図書館は科学研究の補助道具というだけではない。補助道具に甘んじていては図書館は植民地となってしまい、独立して存在する理由がなくなってしまう。
 図書館が守るべきものは何なのだろうか?少なくとも日本の大学図書館を見ていると、図書館が誕生した社会の性状に合っていると思う。つまり読者のニーズを満たすため存在しているのだ。読書のニーズは本を読みたいという人の欲望というだけでなく、一種のシステムであり、一生のニーズに応える必要がある。近代図書館は工業化に適応するため、多くの優秀な労働力を必要とし、またその人々の素養を高める必要をも生んできた。情報化時代の図書館でも、読者のニーズを満足するという本質には変化はない。形式が変わっただけである。従って、図書館は読者のニーズを満たすためのサービスを守り、それに全力を尽くすべきである。
(2)図書館の発展する前途は?
 次に思い当たった問題は、情報化時代、図書館の発展する前途はどのようなものか?ということだ。ここではデジタル図書館と伝統的な図書館の比較やその複合型については述べていない。しかも、図書館は情報技術の衝撃を受け、その社会に対する責任にも根本的な変化が起きた。それは図書館の存続するベースである。日本の図書館に対する考察と、去年の北欧で行った大学図書館の考察から、これらの図書館は建築構造からサービス内容まで、驚くべき変化というものはなかった。もしかすると中国国内の情報技術が、これらと比べそれほど劣っていないのかもしれないし、新しいものを多く求めすぎたので満足できなかったせいかもしれない。要するに、彼らはやはり教員や学生の読者のニーズを満たすべくまじめにこつこつと努力しているのだ。ただ、私たちの見た欧米や日本の図書館は、情報技術の発展に対する適応の面で非常に優れている。話を三つにまとめると、一つにはリソースの共有が成熟していること、また、ネットワーク利用のできないところがないこと、さらに、新しいものを求めながらも実務的であることである。
 リソースの共有はかなり成熟している。取り組みも早く、形式も多い。図書館同士の相互利用、ネットワーク共有(OCLC)など、まだまだある。ネットワーク利用のできないところがない。ネットワークを利用して、図書館同士の相互利用、リソース共有、OPAC検索、文献の取り寄せ、発送サービス、ネットでの問い合わせや貸出手続などが実現されている。サーチエンジンと競合しているわけではなく、協力方式をとっている。専門の研究はせず、検索業務に徹している。
 新しいものを求めながらも実務的である。空間や情報、ネットワークを含む図書館のリソースを十分に利用し、読者のニーズに供している。情報共有スペースもうまく運用されている。リポジトリなど、図書館と性質が近く、図書館の発展や地位の向上に役立つ業務を積極的に担っている。
(3)私たちが今すべきことは何か?
 ここまで国外の図書館を考察してきた情報を見ると、図書館が実践する必要のあることがらは主に以下のようにまとめられる。
1)ネットワーク、デジタル資源を十分に利用し、図書館のサービス能力と水準を向上させ、増大し変化しつつある読者のニーズを満足すること。
2)図書館の空間、蔵書、ネットワーク資源を十分に利用し、読者が図書館の共有スペースを自由に利用できるようにすること。
3)大学の真のリソースセンターとなることを目指し、購入した各種リソースだけでなく、大学の教職員による各種研究、教育などの成果を保存、開発し利用に供することにも気を配る必要があること。
4)外界との連携を積極的に検討し、リソースの共有を実現すること。ここでいう共有リソースには、蔵書、ネットワーク、人力など各種のリソースを含む。
 上記をまとめると、日本の大学図書館は先進国の大学図書館として捉えられ、その発展の特徴は先進国の図書館のそれと一致している。今回の日本の図書館の考察旅行は充実したものだったと言える。多くのものを見ることができ、参考や考察に値するものも多かった。中国国内の図書館は改革開放以降、大いに発展した。私たちと先進国の図書館との交流も日を追って増えてきている。しかし、やはり中国は発展中の国であり、他国の今日は私たちの明日かもしれない。従って、学習は回り道を避けたり少なくしたりする重要な手段でありうる。毎回の国外視察や学習は言葉にしがたい感嘆だけではない。私はそこで見てきたものを真剣に大衆へ公開するが、重視に値するものにしたいと願っている。(2006年12月12日 火曜日)


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