日本財団 図書館


上海海事大学図書館 副館長 蒋志偉
日本の大学図書館の考察について
 
1. 訪日考察活動の背景
(1)訪日考察活動の賛助機関
 今回の訪日は、日本財団の助成を得て日本科学協会が実施している「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の一環として行われたものである。日本財団は古くから中日友好交流事業を行っており、中国の改革開放事業を支持する日本の民間友好団体である。1972年中日両国が国交を回復して以降、「日本財団」はすぐに中国との友好交流を始めた。日本財団の笹川陽平会長の父親である故笹川良一氏が、戦後に競艇事業を少しずつ進め、中日国交回復後、初めて中国へ入り、笹川ファミリーの中国友好事業を展開した。故笹川良一氏は50億円を出資して「笹川中国友好基金」を設立し、大規模な訪日活動を何度も組織した。笹川陽平氏がその職位を継承して以降は、実用性にこだわって日中友好事業を積み上げてきた。今回、私達が日本に到着したとき、笹川陽平氏が自ら代表団を出迎えてくれた。その言行から、笹川氏は浮いたことを言わず、まじめな実務家だと感じ取れた。彼は中日友好に自分の認識やこだわりをもっており、高遠な見識を披露しながらも、ユーモアや情熱にも富んだ人物である。笹川陽平氏のような日本人が中日関係の大黒柱であり、日本人の中国人に対する気持ちの主流でもあると信じている。
 日本科学協会は1924年に成立、文部大臣の認可を受け設立された財団法人である。協会は日本の国際的な科学や教育の協力事業を促進しており、よって平和と発展を目的とする団体の一つである。協会は中日協力の分野でも少なからぬ仕事をしている。1999年7月から、日本財団の賛助を受け、「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の中国向け図書寄贈活動を展開してきた。よって、この中日大学図書館同士の交流事業でも、日本科学協会は主催者として中国国内での窓口を務めた。今回の日本財団表敬訪問時、日本科学協会の濱田隆士理事長、梶原義明常務理事も会見に出席した。彼らはいずれも中国と友好的な日本の民間人である。
 今回の活動は全日空の支持も得た。全日空の英語名はAll Nippon Airways(略称ANA)、中国語名の綴りは全日本航空公司である。総合的な実力として、アジア太平洋地区および日本で全日空は第二位、日本航空に次ぐものである。全日空はこの中日友好活動プロジェクトを知ると、実際の行動によるサポートに同意し、代表団が日本で活動するために様々な便宜を図ってくれた。
(2)中国での図書寄贈プロジェクト
 今までのプロジェクトで、日本科学協会が収集し寄贈した図書は総計151万冊、中国でその図書を受け入れた大学はまだ24校である。このプロジェクトの中国での影響は始まったばかりである。これからの道のりのほうが長く、困難だというべきだろう。このプロジェクトに対しては日本側も重視しており、日本財団の支持のもと、本プロジェクトの実施と合わせ、日本語での知識コンクール「笹川杯日本知識クイズ大会」が展開された。2004年にハルビン市で第一回大会を実施して以来、三回開催され、少なからぬ成果が上がった。同時に、図書の寄贈と「大会」というこのプロジェクトが中国への影響を拡大し始めた。中国と日本の大学のためになる、特に、大学図書館同志の交流プロジェクトについては、中日双方の努力のもとで絶えず発展していくことを心から希望している。また、日本側(日本財団および笹川氏、および本プロジェクトの実務者である日本科学協会を含む)の正しい見通しを賞賛したい。ちょうど笹川氏が日中国交30周年記念大会での講話(『二千年の歴史を鑑として』と題した小冊子に再編されている)で指摘しているとおり、「日中二千年の交流の歴史を振り返ると、実に色々なことがあった。よいこともあれば、悪いこともあった。」恐らくはこの図書寄贈プロジェクトは中日間の文化教育交流活動における偉業の一つであろう。
(3)このプロジェクトにおける我が図書館の役割
 上海海事大学図書館は昨年よりこのプロジェクトに参加しており、寄贈された図書を中国南方各省市の大学へ転送する任務を主体的に担っている。幸いにも日本科学協会から招待を受け、大学からも許可され、私と外語学院日本語専攻の主任である張慧先生の二名が代表団に参加した。2006年12月4日から11日、日本の東京、大阪、沖縄などにある四大学の図書館で考察を行った。考察の期間は長かったとは言えず、日程の手配もかなり詰まっていたが、得られたものは終生忘れ難いと思う。
 このプロジェクト、この偉業に参加できたことは、疑いなく我が図書館にとって幸いだった。同時に、日本はやはり先進国であり、その大学図書館の発展は欧米諸国の水準に近い。しかも私たちと文化の上で源を同じくしており、日本の大学図書館の先進経験を学習することは、中国の大学図書館事業の発展にとって疑いなく非常に重要な意義を持つものである。
 
2. 日本の大学図書館全般の印象
 今回の訪日団メンバーは主に図書の寄贈を受けた24大学の図書館から参加しており、日本での主な参観地点も図書館だった。日本の図書館は非常に合理的にできており、私たちが参観したとき、職業柄、非常に興味を惹かれ、自然と見るのも入念になった。私は初めて日本へ行き、初めて日本の図書館を目の当たりにし、直接日本人と交流した。新鮮さ、好奇心や第一印象、日本の都市、文化、人々そして図書館のいずれもが、いい思い出になっている。
 訪問した5箇所の図書館は、主催者である日本科学協会が苦心して設計し手配したものである。武蔵工業大学図書館、芝浦工業大学図書館、成蹊大学図書館、琉球大学図書館、日本国会図書館はそれぞれに特徴があった。
 武蔵工業大学図書館のような建築構造には特徴があり、日本特有の木造建築の風合いが独自だった。木造建築は少し古びて見えるものだが、この図書館はむしろモダンの息遣いに溢れており、木製家具に囲まれるだけで、学生の意欲が向上し、優雅で落ち着いている。
 成蹊大学は巨大な建築構造だったが、図書館は主建築の八階にあった。この図書館の最大の特徴は透明な建築の趣で、建物の外壁全てが巨大なガラスでできているだけでなく、全体が透明で、心を開いて多くの学生を受け入れ、自らの持つ知識を余す所なく学生に伝えられることを象徴している。他に特徴的なのは、この巨大なガラス製品の中に、完全ガラス製の空間が多く作られていたことである。会議室、学習室、教室など・・・学生たちがこうした透明な空間で知識の交流をしているのを自らの目で見て、日本の教育について一つの視点を感じ取った。知識は透明な空間を伝わるもので、空気のようにこの奇特なビルを満たし溢れている。
 琉球大学図書館は参観した中で唯一の国立大学図書館だった。伝統が感じられ、図書館のサービス理念、管理水準の高さが感じられた。図書館は完全に読者へ開放されているだけでなく、学生に多くの討論室や閲覧室を提供し、大学の成果を収蔵し提供する機能も担っている。これは情報時代の大学図書館にとって、理念が先進的でリードしているものである。
 
3. 日本の大学図書館の考察のまとめ
 日本の図書館を参観し考察するのが今回の旅行の主な目的だった。学習と相互交流の精神に基づき、参観の前に日本科学協会の評議員である日本女子大学教授、田中功先生の提供してくれた日本の大学図書館について簡単に状況を紹介したものを真剣に拝読し、問題点や疑問点を持って訪日に参加した。日本側の手配した五図書館の参観を終え、ざっと一回り見ただけではあるが、ホストの皆さんの熱意あふれる接待を受けつつ、日本の図書館の特に優れているところ、自館の建設に参考となりそうなところを感じ取った。以下は簡単なまとめである。
(1)管理効率のよさ
 参観と交流で見られたこととして、日本の大学図書館は管理の効率が非常によく、この点で、中国の高等教育機関図書館の改革にも参考にできるところが多いと思った。日本の大学図書館は、主に以下の点で管理効率のよさが現れている。一つ目は組織がフラットで簡潔なこと。二つ目は、人員が訓練されており、責任が明確なこと。三つ目は、図書館が秩序だって整然としていたことである。
 日本の大学図書館は、組織がシンプルである。中国の一般的な大学図書館では、全て館長、部門主任、館員の三層構造からなっている。しかし、日本の大学図書館には部門という括りがない。組織構造は基本的に館長(1名)、事務長(1名、または課長)、館員(日本の「司書」証書を所有)である。つまり、図書館の内部業務と開放サービスの二分野に分けて管理しており、構造は十分にシンプルである。日本の国会図書館は国の図書館で、国会議員へのサービスを主な任務の一つとしているが、同時に国の図書館としての責任も負っている。したがって、その組織は大学の図書館と完全に違っている。上記の大学図書館の組織モデルから見ると、日本の大学図書館はいずれもシンプルな組織構造であり、基本的には部門を設けず、専門職の人数も厳格に限られている。日本の人口が近年来減少傾向にあるため、人的資源が逼迫していることも、図書館従業員が少ない原因の一つではないだろうか。日本の大学図書館は組織構造が管理の原則に合っている。一般管理額の研究によると、原則7-8人が規模としては最適で、組織構造はフラットなのが最も効率的だという。この点で、日本の大学図書館は科学的管理の原則に合っている。
 当然のことだ。管理の効率がよく、設備や理念の先進性といった要素だけでなく、人員全体の素養も重要な要素として挙げられる。簡単な例として、磁気ラベルがある。本の見返しに貼ってあり、誰でも分かるようになっている。中国では見えないように磁針をセットしている。本を盗む人がいないとは言わないまでも、かなり少ないのだろう。
(2)サービス理念の新しさ
 私たちが参観した日本の大学図書館は、いずれも規模の大きいところではなかった。武蔵工業大学や芝浦工業大学などは中国で言うと小規模な学校にあたる。しかし、この二館という一部から全体を見ることができる。いずれにも電子閲覧室、学生討論室、教員閲覧室、会議室、視聴覚室などが設置されている。規模の大きさに関わらず日本の大学図書館は、建物がよいだけでなく、レイアウトも合理的で、相談が充実しており、学生の色々な学習ニーズを重視している。
 日本の大学図書館では館員の全てが「司書」資格証書を取得しなければならない。この専門資格証書がないとその任に就けないのだ。館員は図書館情報学専攻の卒業生だけではない。他専攻の出身者のほうがより多い。したがって、図書館業務以外にも特定専門分野の知識を備えており、教員向けの学科サービスを行うこともできる。このため、各館は需要に基づいて専門館員(中国の学科館員に相当)を配備しており、一般にやや大きな図書館では更に3〜4名、小さな図書館でも1〜2名の専門館員がいる。専門館員は主に専門文献の検索補助や受け渡しに従事している。
(3)ユニークな建築
 日本の大学図書館はいずれも個性に気を遣っている。特徴はそれぞれ違っており、モダン建築で表現できているものもあり、蔵書の特徴で表現できているのもある。図書館自身が特徴的であったり、大学に含まれていたりする。
 武蔵工業大学の図書館は木製の内装が特徴である。図書館内の各設備は、机、椅子、書架やパーティションまでが木製である。館内設備については、木材でできるものは全てが木製なのだ。木製品の作る環境は古典的で静かな趣があり、閲覧する環境に適しており、図書館内の雰囲気が読者と特に溶け込んでいる。
 芝浦工業大学図書館の館内環境は現代的である。面積は余り広くないが、館内レイアウトは非常に合理的で、広々と明るい感じがする。小さいスペースの利用が非常にうまかった。例えば閲覧スペースにアイドル区画があり、ほどよい緊張感と落ち着きが感じられる。視聴覚エリアの面積も広くはないが、10台ほどのコンピュータが1つのコーナーに置いてあり、何ら文字説明がない。1台の液晶モニタとその前に置かれたモダンできれいなソファが視聴覚エリアの目印になっている。こうしたレイアウトはとても創意に富んでいる。
 成蹊大学図書館は面積が12000m2近く、全面ガラス張りで、外壁にも内部のパーティションにもガラスが用いられているという特徴的な図書館である。図書館に一歩入ると、球状のガラス空間が数多く見える。あるものは会議室、あるものは討論室のレイアウトがされており、教室や閲覧室もある。
 琉球大学図書館は私たちが参観した中では伝統が感じられる建物で、本館は総合大学の、分館は医学部の図書館になっている。
 まとめると、参観した日本の大学図書館はいずれも特徴がはっきりしており、一館ごとに受ける感覚が違い、それぞれの特徴を持っているのだが、注目したいのは図書館のサービス、管理と建築との融合である。
(4)伝統と革新の優れた調和
 私たちが見てきた日本の図書館は、斬新な現代的建築か、伝統を重んじた建築かに関わらず、また建設規模の大小に関わらず、明らかな特徴を備えていた。それはどの図書館でも伝統の継承と革新とが有機的に調和していたことである。例えば武蔵工業大学の図書館は木造であるが、建築の外形も館内設備も現代的なものだった。成蹊大学の図書館は建築の外形が非常に現代的だった。全てが透明なガラスなのだ。しかし、そこでも図書館の伝統は保たれており、貸出、館内閲覧、相談を主体とする伝統的なサービス体系が維持されていた。芝浦工業大学図書館、琉球大学図書館および国会図書館では、伝統的なサービスが良好に保たれていただけでなく、革新されている点もあった。
 伝統の維持という観点から考えさせられたのは、主に以下の点についてである。
1)読者の閲覧ニーズを満たすのが主
 図書館は、読者の閲覧ニーズを満たすための機構であるため、ニーズに対応するには情報化につれて弱体化することはできない。逆にいっそうの強化と発展を得るべきだ。情報化時代の読書のニーズをいかに満たすかが、情報化時代へ向かう図書館の一大課題である。読者ニーズの満足を目指しての行為でも、図書館を放棄したり貶めたりする行為は全て図書館の背信行為であり、図書館の社会紀律に背くものであるため、最終的には歴史の罰を受けることになる。この方面では、日本の大学図書館は比較的うまくやっていると言うべきだろう。それがよく現れているのは以下の項目についてである。
[1]書目の検索が便利
 参観した図書館では、どこでもOPAC検索システムが使えた。武蔵工業大学図書館ではフロアごとの分かりやすい位置にOPAC端末を設置しており、成蹊大学図書館ではOPAC端末が16台で、データベース端末の12台を超える数である。その大学の教員は自宅や事務所で図書館の書目を検索でき、学生は寝室でも検索できる。このほかにも、図書館では大量の図書館リソースを紹介しており、読者が図書検索に利用できる。
[2]気配りの行き届いた読書環境
 図書館は読書環境の整備についても全力を尽くしている。閲覧用の机や椅子の設計、書架からの本の取り出しやすさなど、細部に亘るまで、温かみのある人間的な方法をとっている。例えば照明、電源、ネットワークプラグ、踏み台など、実用的なだけでなく美しさもある。多くの図書館では休憩環境が読書環境と調和をもって住み分けられており、読書環境のレイアウトは多様で巧妙なものである。
2)読者主義の表現
 読者に利便を図るのは図書館の伝統文化の精髄の一つである。日本の大学図書館は、施設に関わらず、読者の利便性を強烈に意識している。例えば、芝浦工業大学図書館のエレベータには、そばに必ずフロアガイドがある。武蔵工業大学の書庫では、読者が書籍検索をしやすくするため、建物の断面図がデザインされている。読者が一目で分かるようになっており、非常にシンプルである。だいたい、各図書館の読者入口には、どこでも相談カウンターを設置している。この点は欧州の図書館と基本的に同じである。
 読書は本を読むという行為だけでなく、討論も非常に重要である。討論については現代西洋教育が比較的成功しているところである。したがって、日本の大学図書館には、欧米のように多くの学生学習討論室が設置されている。学習室は図書館の各フロア、各スペースに分布しており、特定の箇所に偏ってはいない。これは参考にできる点だと思う。


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