日本財団 図書館


大連理工大学図書館館長、教授 楊海天(訪日団団長)
「第4回中国大学図書館担当者訪日団」訪日感想文
 
 日本財団の助成と日本科学協会の招請を受け、中国国際友好連絡会の参加と指導の下「第4回中国大学図書館担当者訪日団」一行27人は2006年12月4日〜12月11日に日本を訪問し、視察と交流を行った。訪日団は日本に8日間滞在した。その間に東京、沖縄、大阪、京都、奈良等地域を訪問し、日本財団と日本科学協会を表敬訪問した。「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の業務委託先である株式会社ヤマタネを視察し、武蔵工業大学図書館、芝浦工業大学図書館、成蹊大学図書館、琉球大学図書館と国立国会図書館を見学した。日本科学協会の細かい手配により、訪日は順調に終了し、所期の成果を得た。今回の訪日は実に実り豊かなものであり、非常に良い体験だった。これは訪日団全員の共同認識であった。
 
1. 訪日の概要
(1)日本財団と日本科学協会最高責任者への表敬訪問
 日本に到着した翌日の12月5日に訪日団は、日本財団と日本科学協会最高責任者を表敬訪問した。笹川陽平日本財団会長は、多忙中にも拘わらず、訪日団と会見してくれた。三浦一郎日本財団常務理事、濱田隆士日本科学協会理事長、梶原義明日本科学協会常務理事らも、訪日団と会見された。笹川陽平会長は「隣国と友好的に付き合うことは、共に努力していくべきことである。『教育・研究図書有効活用プロジェクト』の継続発展こそ、貴重で意義のあることである。日本財団は、様々な形で中国の経済発展を支援していく。」と述べられた。濱田隆士日本科学協会理事長は、訪日団を歓迎し、『教育・研究図書有効活用プロジェクト』が更なる成果を収めることを期待する。」と述べられた。また、笹川陽平会長と濱田隆士理事長は、「中日双方の友情を深め、中日両国民の相互理解を深化し、日本滞在中に日本のことをより多く理解してほしい。」と述べられた。
 訪日団を代表して私は、日本財団と日本科学協会が、長年来、「教育・研究図書有効活用プロジェクト」を通じ、中国の大学と中国の教育事業を支援していることに対して心から感謝し、また、今回の日本訪問についても日本財団の助成金と日本科学協会の招請及び訪日日程の手配等について感謝の意を表した。
(2)「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の業務委託先の見学
 訪日団は、「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の業務委託先である株式会社ヤマタネを見学した。株式会社ヤマタネへ向かう途中、日本科学協会の担当者は、訪日団に株式会社ヤマタネにおける具体的な作業手順及び「教育・研究図書有効活用プロジェクト」における役割を説明した。株式会社ヤマタネは利益が低く公益性の高い事業をしているとの説明を受けた時、株式会社ヤマタネの中日協力事業への支援に対する敬意が訪日団の心の中に沸いた。日本全国から集められた図書が株式会社ヤマタネに運ばれ、日本側のスタッフ達がそれらの分類、整理、登録を行い、中国の各大学からの要望に従い、更に仕訳し、梱包するという全過程を視察した。株式会社ヤマタネの図書保管倉庫に入った団員達は、とても興奮していた。自分達の大学に送る寄贈図書の箱を見つけ、大学名のラベルが貼ってある箱の前で記念撮影をした。訪日団は、株式会社ヤマタネの責任者や社員達の労働について心から感謝したいと感じた。
 日本科学協会のスタッフは、図書寄贈の流れについて説明した。彼らは、中国の大学図書館から寄せられた和文図書に関する要望に基づき、図書の提供を呼びかけている。図書の提供を受けると、委託する倉庫を選んでそれらを入庫させる。図書の整理・選択、リストの作成を行い、寄贈予定図書のリストを中国の大学図書館へ送信する。また、返信されてきた要望に従って図書を配分して梱包、輸送等を行う。これら全ての過程において日本科学協会のスタッフ、図書提供者、倉庫作業員が多大な労力を投入している。また、日本財団は、「教育・研究図書有効活用プロジェクト」のために、輸送費と倉庫保管費等を含めて巨額な助成金を拠出している。特に、感動的に思ったことは、日本科学協会のスタッフが中国の大学図書館の要望に従って図書を一冊一冊厳しく選び、検査しているということである。視察を通じて24の大学図書館担当者は、寄贈図書の大切さを理解した。帰国後、全ての訪日団員は、「これらの図書を大切し、日本財団と日本科学協会に必ず恩返しをしたい。必要に応じて必要な図書を選び、掲示・宣伝し、これらの図書がより多くの読者に活用されるようにしたい。」と表明した。
(3)4大学図書館及び国立国会図書館の訪問見学と図書館間の交流
 訪日団員27名のうち、22名が中国の大学図書館の責任者、或いは館員である。従って、皆が日本の大学図書館について濃厚な興味を持っていた。日本科学協会と日本女子大学田中功教授は、訪日団のために日本の代表的な図書館である4つの大学図書館と国立国会図書館を選び、訪日日程に組み入れてくれた。4大学図書館とは、武蔵工業大学図書館、芝浦工業大学図書館、成蹊大学図書館、琉球大学図書館である。4大学図書館を訪問した時、熱烈な歓迎を受けた。各大学の学長は大学を代表して歓迎の挨拶をし、図書館館長は大学図書館の現状を説明してくれた。その後、担当者は図書館内を案内しながら図書館の蔵書、貸出状況、図書の利用状況、便利でスピディーな読者サービス等を説明し、最後に質問応答の時間を設けてくれた。国立国会図書館の担当者は、図書館の案内ビデオの後に図書館本館を案内してくれた。国立国会図書館の壮大な建築、豊富な蔵書、特に、「真理がわれらを自由にする」という理念は、とても印象的であった。
 日本女子大学文学部の田中功教授は、日本の図書館情報学の分野の専門家であるが、訪日団のために「日本における大学図書館の現状と新しい取り組み」と題する原稿を用意してくれた。原稿には日本の大学図書館数、学生数、図書館の予算、図書館の資料費予算等が紹介されており、「大学図書館ネットワークと相互貸借」、「大学図書館の一般公開」、「公共学習室(Learning Commons)」、「機関リポジトリ(Institutional Repository)」等、日本の大学図書館の新しい動向が紹介されていた。
(4)日本の歴史、文化、社会、自然についての理解と観察
 「第4回中国大学図書館担当者訪日団」は、日本財団と日本科学協会の支援により、本州を離れて初めての地方訪問を行った。訪日団は、12月7日〜8日に沖縄の首里城、琉球大学、海洋公園を、12月9日に大阪城天守閣を、12月10日に京都の清水寺、金閣寺と奈良の東大寺、唐招提寺を見学した。訪日団は沖縄の美しい亜熱帯の風光を楽しみ、日本の歴史文化の趣深い古都京都、奈良を楽しんだ。そして、和食を味わい、独特な茶道文化を体験し、琉球舞踊を観賞した。これらを通じて訪日団は、日本の歴史、文化、社会、自然について初歩的な理解を得た。
 
2. 訪日団の収穫と感想
(1)「教育・研究図書有効活用プロジェクト」への理解とこの事業への協力に対する責任感
 今回の訪日団は、日本科学協会が中国の受贈大学を追加した後に招聘した訪日団である。多くの団員にとって、初めての日本訪問である。この訪問により、訪日団は、日本財団、日本科学協会のこと、そして両者の事業についてより深く理解した。日本科学協会は、「科学教育と一般文化との発展に寄与することにより、世界平和と国利民福とを図ることを目的」としている。日本財団と日本科学協会は、「教育・研究図書有効活用プロジェクト」を非常に重視している。事業の企画から実施まで多大な労力を投入し、図書の収集、整理、配送等、各段階において多くの困難を克服してきた。事業の実施過程において日本の図書館業界、出版界、文化界等から多くの支持を得ている。「教育・研究図書有効活用プロジェクト」は架け橋のように人々や社会団体をつなげ、各界における中日友好を維持して発展させる情熱と力をまとめる事業となっている。訪日団は、中日間の友好交流のために日本財団が成し遂げてきた多大な貢献を理解した。日本財団は、「教育・研究図書の有効活用事業」以外に、「笹川医学奨学金制度」、「ヤングリーダー奨学基金」、「日本語教師派遣事業」、「笹川日中友好基金」、「ハンセン病撲滅事業」、「日中両国鉄道発展事業」、「中国国際関係学ネットワーキング」等、十数件の事業を実施している。これらの事業は、科学教育と一般文化との発展に寄与し、中日間の友好交流の促進を具現している。団員達は、自らも中日両国友情を構築する一員になろうと思うようになった。
 日本滞在中、団員達は日本財団と日本科学協会の最高責任者を表敬訪問し、「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の協力会社である株式会社ヤマタネを視察した。日本科学協会の「教育・研究図書の有効活用事業室」のスタッフからは至れり尽くせりの配慮を受けた。これらを通じて団員達は、日本財団と日本科学協会が「教育・研究図書有効活用プロジェクト」を重視していることを深く感じた。特に、株式会社ヤマタネを見学したことにより、一冊一冊の本に多くの人々の苦労や厚意が込められ、図書寄贈の過程には多くの労力が費やされているということを感じた。頭の中、そして、心の中に「教育・研究図書有効活用プロジェクト」に協力しなければならないという責任感と使命感が強くなった。団員達は、「今後、寄贈図書を十分に有効に活用するためにしっかりと協力したい。」と様々な場面で表明していた。
(2)日本の大学図書館についての深い印象
 訪日団は、武蔵工業大学図書館、芝浦工業大学図書館、成蹊大学図書館の3つの私立大学図書館と国立の琉球大学図書館、さらに、国立国会図書館を訪問した。これらの図書館は団員達に深い印象を残してくれるものであり、多くの収穫と感想が得られた。
1)日本の大学図書館館舎の斬新な設計とそれぞれの特色
 今回、見学した日本の私立大学図書館は、全て新しい図書館である。建物のデザインも斬新なものであった。武蔵工業大学図書館は、自然と人文を融合するという設計理念に基づいている。芝浦工業大学図書館は、白と黒の色彩を採用している。成蹊大学図書館は、ガラスと鉄鋼を完璧に結合させている。琉球大学図書館は、非常にシンプルであった。日本の大学図書館館舎の建築風格は多様である。それぞれ特色がある。館舎の造形は、既に図書館文化の重要な構成要因となっている。図書館は、読者を啓発し、読者の創造性を刺激する上で重要な役割を果たしている。
2)館舎建築の特色に応じた各図書館特有のサービス
 武蔵工業大学は、心を静めて伸び伸びと学習する学習型図書館を目標としている。内装には全て木の素材を使っている。読者は、本に囲まれて至るところから本を取ることができる。閲覧席は本棚に近い。無線LANでネットワークに接続することができる。音楽が流れ、のんびりとした温かい雰囲気が漂う中で便利さを感じることができる。芝浦工業大学図書館のサービスの特徴は、非常に鮮明であった。訪日団のために特別に催してくれた茶道は、厳かで重々しく、優雅な雰囲気を味わうことができた。茶道と読書を融合し、心を静めて茶を楽しみ、心を静めて本を読む。その楽しさに勝るものはない。
 成蹊大学図書館は、正に設計芸術の殿堂である。建物全体がガラス張りであり、透き通っていて明るい。各閲覧室の造形もそれぞれ異なり、椅子も綺麗な形をしている。正に美を楽しむものである。琉球大学図書館は、中国の大学図書館の状況に近い。発展の段階も中国の大学図書館に近い。琉球大学図書館は、琉球に関する文献をすべて収集し、それを特色としている。豊富な琉球文献の存在により、世界各地から研究者がここに集まり、ここで研究に励んでいる。
3)現代化水準が高く先進的設備の日本の大学図書館
 見学した大学図書館にはネットワークの管理システムと厳しいセキュリティーシステムが整備されている。便利でスピディーな公共サービスシステム(コピー機、プリンター等のネットワーク化)、自動貸出・自動返却システム、自動転送システム、移動本棚、無人倉庫及び管理システム等がある。移動本棚と無人書庫及び管理システムは、中国国内の図書館の低利用率蔵書問題の解決にヒントを与えるものである。書庫には換気装置、音声警報装置、煙警報装置、CO2消火システムを含む防災システム、通路の要所には緊急システムと簡潔な説明文がある。高水準の現代化システムと設備は、読者に利便性を与え、多くの労力を省いた。これらのシステムは投資額が大きく、日本の大学図書館の高い現代化水準が反映されている。
4)業務管理の特徴
 図書館業務の外部委託は、日本の図書館の中で普通に行われている。視察した4大学図書館は、学生数と教職員数の割に正規の図書館員数と蔵書数が少ない。図書館の人員配置において効率が求められている。武蔵工業大学図書館は、図書目録の編集作業を専門の目録編集会社に、流通作業も専門の人材会社に委託している。自動貸出・自動返却システム、無人倉庫システム等の先進的技術と設備により図書館館員の作業量を大いに削減している。図書館館員は、より多くの時間と精力を相談業務等、高品質のサービス提供に集中することができる。見学した大学図書館では、通常、司書資格を有する館員が8〜9名いるのみである。その他に学生アルバイトを多く雇っている。学生アルバイトの活用により人件費を節約すると同時に、学生に図書館を理解し、図書館を活用するチャンスを与える。学生アルバイトはそれらの情報をまた仲間達に伝え、そのことが図書館の利用率向上につながる。これらは、今後、中国の図書館管理を改善するうえで有効な事例である。
5)読者本位の濃厚味
 日本の図書館の視察を通じ、「読者第一」、つまり、きめ細かなサービスの提供が日本の大学図書館の特徴であると理解した。それは、消音処理を施されたジャーナル棚、日、英、中、韓等多言語のガイドブック等である。各図書館のバリアフリー、目の不自由な読者のための音声ガイド、文献閲覧器等がある。閲覧中の読者に影響を与えないため、見学者は撮影、収録することを禁止されている。読者を尊重し、読者を守る「読者第一」の理念がよく反映されていた。
(3)その他の収穫
 すべての団員にとって最も感動したことは、中日両国民の友情である。訪日団は、日本財団と日本科学協会の最高責任者を表敬訪問した。日本財団と日本科学協会は、「教育・研究図書有効活用プロジェクト」を非常に重視している。そして、日本財団と日本科学協会の各分野における中日間交流の強化、中日友好関係の発展、世界平和の促進への願いを身をもって体験した。訪日団が武蔵工業大学、芝浦工業大学、成蹊大学、琉球大学を訪問した際、各大学の学長を始めとする主要責任者から熱烈な歓迎を受け、日本の教育界の友好的な感情を感受した。日本科学協会のスタッフとは8日間接したが、訪日団への気配りと友情がよく伝わってきた。日本滞在中に行く先々で温かい友情を感じ、よそよそしさや疎遠感などは毛頭も感じられなかった。中日両国の友好関係は、中日両国の重要な利益である。日本財団と日本科学協会が中日両国間の理解強化と友誼増進を提唱することは、正に遠見卓識である。
 また、訪日団は日本の歴史、文化、自然をより深く理解した。沖縄訪問を通じ、訪日団は、辺鄙地域の経済発展と地域振興に対する日本政府の政策を知り、これを賞賛した。東京と大阪の訪問を通じ、日本の工業化の成果について深く理解した。大阪、京都、奈良の見学を通じ、日本の歴史と文化を自ら体験した。特に、日本が古跡や文化施設を保存・保護していることは、印象的であった。その他にも、訪日団の団員は皆、創意に富み、精緻な日本の製品に興味を示していた。
 我々は、身をもって日本国民の勤勉さ、礼儀正さ、勤務姿勢、道徳心を感受した。これらは、日本が経済強国、高度な文明を有する社会になれた重要な理由だと理解している。一部の団員は、「中国の現代化の過程において日本の先進的理念と経験を学び、日本についての理解と認識を深めなければならない。」と話していた。
 「第4回中国大学図書館担当者訪日団」が、成功裡に実り多いものであったことを団長として非常に光栄に思った。我が大連理工大学は、今年、日本科学協会の依頼を受けて中国の北部地域における受贈図書の中継大学となり、日本科学協会と受贈大学からの信頼を感じている。我々は、中継大学としての仕事に励み、「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の図書の有効活用を必ず推し進めていこうと考えている。
 最後に、訪日団を代表して改めて「第4回中国大学図書館担当者訪日団」を快く受け入れてくださった日本財団、日本科学協会、笹川陽平日本財団会長、濱田隆士日本科学協会理事長、梶原義明日本科学協会常務理事を始めスタッフの方々、武蔵工業大、芝浦工業大学、成蹊大学、琉球大学の学長及び図書館長、国立国会図書館に感謝すると共に訪日に便宜を図ってくれた全日空に感謝する。
2006年12月30日


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