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平成18年那審第17号
件名

旅客船第五十八あんえい号乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年9月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平野研一)

副理事官
入船のぞみ

受審人
A 職名:第五十八あんえい号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
両舷プロペラ翼,同プロペラ軸,シャフトブラケットに曲損

原因
針路選定不適切

裁決主文

 本件乗揚は,針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月19日16時45分
 沖縄県八重山列島西表島船浦港東方沖合
 (北緯24度24.3分 東経123度48.4分)

2 船舶の要目
船種船名 旅客船第五十八あんえい号
総トン数 19トン
全長 19.79メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,182キロワット

3 事実の経過
 第五十八あんえい号(以下「あんえい号」という。)は,平成3年3月に進水して3機3軸及び2舵を備え,航行区域を限定沿海区域とする最大搭載人員69人の軽合金製旅客船で,船体中央部に操舵室を設け,沖縄県において石垣島石垣港,西表島船浦港及び鳩間島鳩間港間の定期運航に従事しており,A受審人ほか甲板員1人が乗り組み,旅客20人を乗せ,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成17年8月19日16時40分臨時便として船浦港を発し,鳩間港に向かった。
 ところで,船浦港東方沖合の干出さんご礁帯には,長さ約150メートル可航幅約60メートルの狭い水路(以下「水路」という。)があり,水路北縁には右側端を示す,構造物の高さ5.3メートルの船浦港北口第8号灯標(以下,灯標の冠称については,「船浦港」を省略する。)が,同灯標の北東方1,190メートルの地点に,同高さ5.1メートルの東口第7号灯標が,北口第8号灯標の南西方180メートルの地点に私設の簡易浮標(以下「浮標」という。)が,それぞれ設置されていた。
 A受審人は,平成3年9月に一級小型船舶操縦士の免許(平成18年8月一級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士免許に更新)を取得し,平成10年からあんえい号と同型船の専属船長職を執って船浦港への出入港を数多く経験しており,本件当時は,休暇中のあんえい号の専属船長に代わって乗り組んだもので,同船にはこれまでも幾度か乗船していた。
 A受審人は,平素船浦港を出航して水路を航行する際,浮標を左舷方に約30メートル離して並航し,浅礁を確認するため,海面の色の変化を注視しながら,水路中央部を航過することとしていた。
 A受審人は,出航したのち,GPSプロッターの電源を入れて表示を確認し,西日を右舷船尾方から受けながら東行し,16時44分少し過ぎ北口第8号灯標から242度(真方位,以下同じ。)590メートルの地点で,針路を073度に定め,機関を全速力前進にかけ,30.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
 16時44分半A受審人は,北口第8号灯標から220度220メートルの地点に達したとき,浮標を約50メートル離して航過し,このまま進行すると右舷方のさんご礁に接近して,水路内で左に転針する必要がある状況となったが,いつも通航している水路なので大丈夫と思い,水路中央部を安全に航過できるよう,GPSプロッターの表示もしくは目視により,東口第7号灯標を船首目標とするなど,針路の選定を適切に行うことなく,続航した。
 こうして,16時45分少し前A受審人は,北口第8号灯標から155度120メートルの地点に達し,海面の色の変化により,右舷方のさんご礁に接近していることを認め,左舵10度を取って針路を016度に転じ,北口第8号灯標北東方の浅礁に向首して著しく接近する状況となって進行中,16時45分わずか前同礁を間近に認めて急ぎ右舵を取ったものの及ばず,16時45分あんえい号は,北口第8号灯標から050度140メートルの地点において,原針路,原速力のまま,浅礁に乗り揚げ,これを乗り切った。
 当時,天候は晴で風力1の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 乗揚の結果,あんえい号は,両舷プロペラ翼,同プロペラ軸及びシャフトブラケットに曲損を生じたが,自力で船浦港に入港し,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,沖縄県西表島船浦港東方沖合において,干出さんご礁帯の狭い水路を航行する際,針路の選定が不適切で,右舷方のさんご礁に接近したのち,左に転針して船浦港北口第8号灯標北東方の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,沖縄県西表島船浦港東方沖合において,干出さんご礁帯の狭い水路を航行する場合,水路中央部を安全に航過できるよう,GPSプロッターの表示もしくは目視により,船浦港東口第7号灯標を船首目標とするなど,針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。
 しかるに,同人は,いつも通航している水路なので大丈夫と思い,針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,右舷方のさんご礁に接近したのち,左に転針して船浦港北口第8号灯標北東方の浅礁に向首進行して乗揚を招き,両舷プロペラ翼,同プロペラ軸及びシャフトブラケットに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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