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平成18年神審第52号
件名

貨物船神栄丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年9月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:神栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
指定海難関係人
B 職名:神栄丸機関長

損害
球状船首に破口,フォアピークタンクに浸水

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月3日22時28分
 兵庫県相生市蔓島西方沖合
 (北緯34度45.0分 東経134度26.0分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船神栄丸
総トン数 199トン
登録長 55.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット

3 事実の経過
(1)設備及び性能等
 神栄丸は,平成4年4月に進水した船尾船橋型の鋼製貨物船で,操舵室前面の左舷にレーダー2台,中央に舵輪が備えられた操舵装置,右舷に機関制御装置が並び,右舷前方壁面にGPSプロッターが取り付けられ,後部の左舷には海図台,後部右舷にはソファーが備えてあった。
(2)本件発生に至る経緯
 神栄丸は,A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み,スクラップ鉄580トンを積載し,船首2.2メートル船尾3.3メートルの喫水をもって,平成17年3月3日17時00分尼崎西宮芦屋港を発し,水島港に向かった。
 A受審人は,出港から明石海峡航路途中まで自ら操船し,日没時には所定の灯火を点灯したのち,19時20分明石海峡航路内で昇橋してきたB指定海難関係人に播磨灘推薦航路をたどるよう指示して当直を引き継いだ。このとき,A受審人は,B指定海難関係人が夜間の瀬戸内海での単独船橋当直を行うことに自信がないことを聞いていたが,広い海域で前示推薦航路をたどるのであればB指定海難関係人でも無難に同当直を遂行できるものと思い,不安や眠気を感じたときには,報告するよう指示をしないまま,自室に下りた。
 ところで,船橋当直を引き継いだB指定海難関係人は,前々日の広島港での乗船後,自身の単独船橋当直の技量に不安を感じて,A受審人にその旨報告していたが,配慮してもらえなかったので,不安が高まり,前日及び当日の休憩時間に十分な睡眠をとることができなかった。
 19時30分B指定海難関係人は,江埼灯台から310度(真方位,以下同じ。)1.8海里の地点に達したとき,A受審人からの推薦航路をたどるようにとの指示を聞き漏らしていたので,GPSプロッターに残っていた前回の広島からの航跡を逆にたどるつもりで,針路を285度に定め,機関を全速力前進の9.3ノットの対地速力として自動操舵により進行した。
 20時10分B指定海難関係人は,江井ケ島港西防波堤灯台から245度3.3海里の地点に至ったとき,眠気を催したので,船橋左右のドアを開閉して冷気を入れたり,体を動かしたりして眠気を払拭しようとしたが,A受審人に対して眠気を催した旨報告し,2人当直とするよう進言しないまま,いつしか右舷側のソファー上で居眠りに陥った。
 こうして,B指定海難関係人は,蔓島西方沖合の水上岩に向首したまま続航して,22時28分神栄丸は,蔓島灯台から260度1.5海里の地点の水上岩に原針路原速力で乗り揚げた。
 当時,天候は晴で,風はなく,潮候は上げ潮の初期で,視界は良好であった。
 乗揚の結果,球状船首に破口を生じてフォアピークタンクに浸水したが,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,兵庫県相生市蔓島西方沖合において,尼崎西宮芦屋港から水島港に向け航行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同島西方の水上岩に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,眠気を催した際には,報告するよう指示しなかったことと,船橋当直者が,眠気を催した際,船長にその旨報告し,2人当直とするよう進言しないまま居眠りに陥ったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,播磨灘において,B指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせる場合,同指定海難関係人に対し,眠気を催した際には,報告するよう指示すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,広い海域であれば無難に同当直を遂行できるものと思い,眠気を催した際には,報告するよう指示しなかった職務上の過失により,同指定海難関係人が居眠りに陥り,兵庫県相生市蔓島西方沖合の水上岩に向首したまま進行して,同岩への乗揚を招き,球状船首に破口を生じてフォアピークタンクに浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,兵庫県相生市蔓島西方沖合において,単独で船橋当直に当たり,播磨灘を西行中,眠気を催した際,その旨を船長に報告し,2人当直とするよう進言しないまま居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しないが,眠気を催した際,船長にその旨報告し,2人当直とするよう進言するなど居眠り運航防止の措置を十分にとらなければならない。





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