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平成18年神審第74号
件名

モーターボート吉勇丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年9月1日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(加藤昌平)

副理事官
天河 宏

受審人
A 職名:吉勇丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
舵板脱落,プロペラに曲損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月12日19時30分
 和歌山県田辺港
 (北緯33度42.3分 東経135度23.1分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート吉勇丸
全長 8.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 69キロワット

3 事実の経過
 吉勇丸は,平成9年9月に第1回定期検査を受検したFRP製モーターボートで,平成7年10月に四級小型船舶操縦士免許を取得し,免許証更新手続を行わなかったために同免許証失効中のA受審人が1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,釣りの目的で,船首0.35メートル船尾0.70メートルの喫水をもって,平成17年10月12日17時00分和歌山県田辺港内の内の浦漁港を発し,同漁港西方3海里ばかりの釣り場で釣りを行ったのち,19時15分同釣り場を発進して帰途に就いた。
 ところで,吉勇丸は,船体中央部船尾寄りに船室及び操舵室を配し,操舵室内には,舵輪,主機遠隔操縦装置及びGPSプロッターを備え,自動操舵装置は装備していなかった。
 また,A受審人は,平成9年9月に吉勇丸を購入して以来,1箇月のうち15日ほど,主に田辺港近辺で釣りを行っており,同港内には浅礁が散在し,港奥の内の浦漁港から同漁港北方の小谷ノ鼻付近にかけては浅礁が拡延し,夜間に目標となる航路標識がないことから,夜間帰航する際には,小谷ノ鼻西方約1,300メートルのところに設置された神楽島南方灯標付近から,小谷ノ鼻北側に拡延する浅礁北端の北方30メートルの地点を通過する098度(真方位,以下同じ。)のコースラインをGPSプロッター画面上に表示させ,同画面上で船位を確認しながらコースラインをたどって航行することとしていた。
 19時27分A受審人は,神楽島南方灯標を北方50メートルに隔てた,田辺港文里第2防波堤灯台(以下「文里灯台」という。)から249度2,300メートルの地点に達したとき,針路をGPSプロッターに表示させたコースラインをたどる098度に定めたつもりで,機関を半速力前進にかけて15.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したとき,A受審人は,吉勇丸の針路がわずかに右方にずれて100度となり,GPSプロッター画面上のコースラインから徐々に右偏し,小谷ノ鼻北側の浅礁に向首する態勢となっていたが,同コースラインをたどる098度としているので大丈夫と思い,手動操舵の舵輪から離れて船尾で釣り道具の片付けを始め,その後,GPSプロッターを利用して,進路が偏向していないかなどの船位の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かず,同一針路,速力で続航した。
 19時30分わずか前A受審人は,ふとGPSプロッターの画面を見たところ,船位が表示されたコースラインの右に外れているのを認め,乗揚の危険を感じたが,何をする間もなく,19時30分文里灯台から218度1,350メートルの地点において,原針路,原速力のまま,浅礁に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で,風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果,舵板を脱落させ,プロペラに曲損を生じたが,のち,いずれも修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,田辺港において,釣りを終えて内の浦漁港に向け帰航する際,GPSプロッターを利用して,進路が偏向していないかなどの船位の確認が不十分で,小谷ノ鼻北側に拡延する浅礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,田辺港において,釣りを終えて内の浦漁港に向け帰航する場合,前路の浅礁との適切な航過距離を保つことができるよう,GPSプロッターを利用して,進路が偏向していないかなどの船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,定針時にGPSプロッターに表示させたコースラインをたどる針路としているつもりで,そのまま進行しても大丈夫と思い,船尾で釣り道具の片付けをして,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,針路が同コースラインから右偏し,小谷ノ鼻北側の浅礁に向首していることに気付かずに進行して乗揚を招き,舵板を脱落させ,プロペラに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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