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平成18年函審第18号
件名

漁船第六十三栄幸丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年9月21日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(堀川康基,井上 卓,西山烝一)

理事官
中谷啓二,副理事官福島正人

受審人
A 職名:第六十三栄幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底に破口,のち沈没

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月13日00時51分
 北海道納沙布岬
 (北緯43度23分 東経145度49分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第六十三栄幸丸
総トン数 4.7トン
登録長 11.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90
(2)設備及び性能等
 第六十三栄幸丸(以下「栄幸丸」という。)は,平成3年8月に進水し,ほぼ船体中央部に操舵室を備えた,さんま流し網漁業などに従事するFRP製漁船で,同室中央に操舵スタンド,左舷側に魚群探知機,レーダー2台及びGPSプロッタ,右舷側に主機遠隔操縦装置がそれぞれ装備されていた。

3 事実の経過
 栄幸丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,さんま流し網漁の目的で,平成17年7月11日23時00分北海道温根元漁港を発し,納沙布岬南南東方95海里ばかりの漁場に向かい,翌12日04時00分同漁場に到着後8回ばかりの操業を行い,さんま1,400キログラムを漁獲して操業を終え,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同日20時00分納沙布岬灯台から170度(真方位,以下同じ。)95.0海里の地点を発進し,温根元漁港に向け帰港の途に就いた。
 ところで,A受審人は,温根元漁港を基地としてさんま漁を行っており,同漁は7月8日に解禁となり,前回の出漁で7月10日02時に帰港し,水揚げ終了後帰宅して6時間ばかり休息できたものの,例年片道3時間ほどの漁場が5時間ほどと遠くなったのに,往復の航海当直を1人で行い,漁場においても,移動時の操船に加えて操業の諸作業も行い,操業の合間に2時間ばかりの休息をとっただけで,疲労が蓄積された状態であった。
 A受審人は,漁場から帰港する際,納沙布岬に向けるために,GPSプロッタに同岬のポイントを入力しており,発進時,針路をこのポイントに向く350度に定め,機関を回転数毎分1,800にかけ,20.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 A受審人は,操舵室右舷側に置いてある高さ70センチメートルの椅子に腰掛けた姿勢で当直を続け,翌13日00時36分GPSプロッタによって納沙布岬灯台から170度5.1海里の地点に至ったことを確かめたとき,疲労の蓄積から眠気を感じるようになったが,港が近いので居眠りすることはないと思い,休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航中,いつしか居眠りに陥った。
 00時49分A受審人は,納沙布岬灯台から168度1,400メートルの,納沙布岬東方560メートルばかりに向ける予定転針地点に達したが,居眠りに陥っていてこのことに気付かず,針路が転じられないまま進行し,栄幸丸は,00時51分納沙布岬灯台から154度280メートルの地点において,原針路,原速力のまま暗岩に乗り揚げて擦過し,前方海岸の消波ブロックに再度乗り揚げた。
 当時,天候は霧で風力1の南風が吹き,潮候はほぼ低潮時であった。
 乗揚の結果,船底に破口を生じ,僚船により引き下ろされ,曳航中に浸水沈没したが,引揚げられ解撤された。

(本件発生に至る事由)
1 疲労が蓄積された状態であったこと
2 港が近いので居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,居眠り運航の防止措置が十分にとられていれば,予定転針地点に到達したことを認識して転針がなされ,乗揚を防止できたものと認められる。
したがって,A受審人が,港が近いので居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,疲労が蓄積された状態であったことは,居眠りに陥った要因であるが,眠気を感じた際,休息中の甲板員を呼ぶなどして,居眠り運航の防止措置がとれる状況であったことから,本件発生の原因とならない。しかしながら海難防止の観点から,疲労が蓄積されないよう体調を管理すべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,北海道温根元漁港に向け帰港中,居眠り運航の防止措置が不十分で,予定転針地点で針路が転じられないまま,納沙布岬南側の海岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,北海道納沙布岬南方漁場で操業を終え,同温根元漁港に向け帰港中,眠気を催した場合,長時間の単独操船や操業の手伝いから疲労が蓄積された状態であったから,居眠り運航とならないよう,休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,港が近いので居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥って予定転針地点に至ったことに気付かず,針路が転じられないまま納沙布岬南側の海岸に向首進行して,暗岩への乗揚を招き,船底に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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