日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成18年那審第11号
件名

漁船有吉丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年8月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(半間俊士,西林 眞,平野研一)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:有吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船体全損

原因
主機クラッチハンドル位置の確認不十分

主文

 本件乗揚は,漂泊する際,主機のクラッチハンドル位置の確認が不十分で,前進行き足を有するまま,さんご礁に向首進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月30日06時30分
 沖縄県石垣港東方沖合
 (北緯24度20.4分 東経124度14.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船有吉丸
総トン数 7.9トン
全長 14.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 250キロワット
(2)設備及び性能等
 有吉丸は,昭和52年5月に進水した従業制限が小型第1種のFRP製漁船で,船体中央部に操舵室が配置され,同室の中央に操舵輪,その前面にマグネットコンパス,同コンパスの左側にアルパ付きレーダー,右側にオートパイロット,ガバナハンドル及びクラッチハンドルを有する主機遠隔操縦装置などが装備され,同室後部に左右両舷にわたるベッドが設備され,後壁の右舷側上部にGPSが装備されており,航海速力は機関回転数毎分1,200の6.5ノットであった。
 主機の運転状態は,ガバナハンドルで回転制御を行い,クラッチハンドルを前方に倒すと前進に,後方に倒すと後進となり,中央の位置で中立となるようになっていた。

3 事実の経過
 有吉丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,まぐろ延縄漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって,平成17年8月23日18時00分沖縄県石垣漁港を発し,同県石垣島南方77海里ばかりの漁場に向かい,翌24日06時30分漁場に至って操業を始めた。
 ところで,石垣漁港を含む石垣港は,西方へ開口し,南側は,石垣島南端から半月形に竹富島まで延びるさんご礁脈に囲まれ,港界南東端のさんご礁の切れ目に,地元漁船が利用する釜口(はがまぐち)(サクラ口)という狭い水路が掘り下げられていた。そのため,A受審人は,平素,石垣島南東方の漁場から石垣漁港に帰港するときは,同島周辺のさんご礁の間を航行することになることから,夜間の入港を避け,GPSに入力していた石垣港登野城第2防波堤灯台(以下「登野城防波堤灯台」という。)から135度(真方位,以下同じ。)6.8海里の地点(以下「待機地点」という。)で待機し,時刻を調整して日出後に入港するようにしていた。
 A受審人は,漁場を適宜移動して北上しながら操業を続け,台風13号の接近が予想されたことから,6回目の操業を終え,各種まぐろ約1トンを漁獲したところで石垣港に向け帰港することとし,同月30日02時00分登野城防波堤灯台から101.5度24.5海里の地点で,待機地点に向けて針路を270度に定め,機関を全速力前進にかけ,6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
 漁場発進後,A受審人は,乗組員2人を休息させて1人で当直にあたり,連日の操業で疲れていたことから,待機地点では漂泊して入港時刻の調整を行う間に仮眠をとることとして,05時00分同地点に達したとき,自動操舵の示度を000度にして船首を北に向け,船内電源確保のために主機を回転数毎分600の停止回転とし,クラッチハンドルが中立位置となるよう操作して漂泊を開始したが,同ハンドルが中立位置となったものと思い,同ハンドル位置を十分に確認しなかったので,中立位置より僅かに前方に残り,クラッチが前進側に入ったままとなっていることに気付かず,強い眠気を催していたので,航海当直を立てないまま,操舵室後部のベッドに入って眠りについた。
 こうして,有吉丸は,針路000度で前進行き足を有することとなって折からの風潮流により左方に約1度圧流され,359度の進路及び3.6ノットの速力で進行中,06時30分登野城防波堤灯台から084度4.6海里の地点において,石垣島白保埼南東方沖合のさんご礁に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,日出は06時24分であった。
 乗揚の結果,自力で離礁できず,乗組員は全員石垣海上保安部に救助されたが,有吉丸は,その後荒天により圧流されて付近の陸岸に漂着し,のち全損処理された。

(本件発生に至る事由)
1 有吉丸
(1)平素から日中にさんご礁間の水路を航行するため,夜間は漂泊して入港時刻を調整していたこと
(2)操舵装置の示度が000度で自動操舵となっていたこと
(3)船内電源確保のために停止回転として主機の運転を継続していたこと
(4)主機のクラッチハンドル位置の確認が十分でなかったこと
(5)クラッチが前進側に入ったままであったこと
(6)航海当直を立てずに眠ったこと

2 その他
 台風13号が接近していたこと

(原因の考察)
 本件は,漂泊する際,主機のクラッチハンドルの位置が中立となっていることを確認していれば,発生を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,クラッチハンドル位置の確認を十分に行わず,クラッチが前進側に入ったままであったことは,本件発生の原因となる。
 航海当直を立てずに眠ったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 入港時刻調整を行ったこと,操舵装置の示度が000度で自動操舵となっていたこと,船内電源確保のために停止回転として主機の運転を継続していたこと及び台風13号が接近していたことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,沖縄県石垣港南東方沖合において,入港時刻調整のために主機を運転したまま漂泊する際,クラッチハンドル位置の確認が不十分で,クラッチが前進側に入ったまま,さんご礁に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が,沖縄県石垣港南東方沖合において,入港時刻調整のために主機を運転したまま漂泊して仮眠する場合,クラッチが前進側に入ったまま同港東方のさんご礁に向かうことのないよう,クラッチハンドル位置の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,クラッチハンドルが中立位置となったものと思い,同ハンドル位置の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,クラッチが前進側に入っていることに気付かないまま仮眠をとり,さんご礁に向首進行して乗揚を招き,自力で離礁できず,その後荒天により圧流されて付近の陸岸に漂着し,のち全損処理とされるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION