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平成18年門審第58号
件名

漁船第六十八神洋丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年8月31日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(片山哲三)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第六十八神洋丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
バルバスバウに小破口を伴う凹損,右舷船首船底,ファッションプレートに凹損等

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年12月31日02時30分
 速吸瀬戸牛島東岸
 (北緯33度17.4分 東経131度56.0分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十八神洋丸
総トン数 324トン
全長 58.31メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第六十八神洋丸(以下「神洋丸」という。)は,船尾船橋型鋼製活魚運搬船で,船尾楼前方に左右2列各5個の活魚倉を備え,同楼最上層の船橋には,前面中央にジャイロコンパス内蔵の操舵スタンド,その左舷側にレーダー2台,同右舷側にGPS及び主機遠隔操縦装置をそれぞれ設置し,A受審人ほか4人が乗り組み,はまち15トンを積載し,船首3.80メートル船尾4.80メートルの喫水をもって,平成17年12月30日15時10分香川県志々島を発し,愛媛県日振島喜路漁港に向かった。
 ところで,A受審人は,船橋当直を4時間交替の単独3直制とし,2時から6時を自ら,6時から10時を一等航海士,10時から14時を甲板員にそれぞれ割り振り,狭水道通航及び出入港時には自らが操船指揮を執ることとしていた。また,機関室当直者は,機関室での作業を終えたのち,時間が許せば当直時間のうち約2時間昇橋して見張りの補助に当たることがあった。
 そして,神洋丸の運航状況は愛媛県宇和島港を基地とし,中華人民共和国,九州東岸及び四国西岸の各養殖場から活魚を瀬戸内海沿岸及び神奈川県三崎漁港へ運搬しており,A受審人は,連日の入出港と昼夜を問わない荷役作業で睡眠を十分にとれなかったうえ,30日には香川県直島及び志々島に寄港し,船橋当直,入出港作業及び荷役作業に追われて疲労が蓄積した状態にあった。
 出港後,A受審人は,出港操船に引き続き自ら1人で船橋当直に就き,17時30分食事のため当直を交替して一旦(いったん)降橋し,19時ごろから来島海峡通峡のため再び昇橋して操船指揮を執ったのち,20時30分自室に戻って休息した。
 A受審人は,翌31日01時20分起床し,01時30分佐田岬灯台から030度(真方位,以下同じ。)4.0海里の地点で昇橋したとき,反航船1隻が右舷側0.5海里を航過し,また速吸瀬戸を北上する貨物船2隻が前路を右方に替わったものの,その後は前路に気になる他船を認めなかった。
 01時40分A受審人は,佐田岬灯台から022度2.5海里の地点で,前直の甲板員から当直を引き継ぎ,1人で船橋当直に就き,針路を223度に定め,機関を回転数毎分310の全速力前進にかけ9.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
 定針して間もなく,A受審人は,疲労が蓄積していて眠気を催したが,佐田岬灯台を左舷正横に見る予定転針地点まであと15分程度で到達することから,短時間のうちに居眠りすることはあるまいと思い,立った姿勢で見張りを続けるなり,機関室当直者を呼ぶなり居眠り運航の防止措置をとることなく,舵輪後方のいすに腰掛け,佐田岬半島北岸に沿って速吸瀬戸に向けて続航し,前路に気になる他船を認めず,視程は良好で,海面も穏やかなことから緊張がゆるみ,いすに腰掛けた姿勢をとり続けているうち,いつしか居眠りに陥った。
 こうして,A受審人は,01時56分佐田岬灯台から313度1.0海里の予定転針地点に達したものの,依然居眠りを続けていてこのことに気付かず,転針が行われないまま,速吸瀬戸南西部の牛島に向首して進行し,02時30分佐田岬灯台から232度5.2海里の地点において,神洋丸は,原針路,原速力のまま牛島東岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は,船体の衝撃で目が覚めて乗揚に気付き,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,バルバスバウに小破口を伴う凹損,右舷船首船底及びファッションプレートに凹損などを生じたが,間もなく自力離礁し,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,伊予灘南東部において,佐田岬半島北岸に沿い速吸瀬戸に向け南西進中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同瀬戸南西部の牛島東岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,伊予灘南東部において,1人で船橋当直に就き,佐田岬半島北岸に沿い速吸瀬戸に向け南西進中,疲労が蓄積していて眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,立った姿勢で見張りを続けるなり,機関室当直者を呼ぶなり居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,佐田岬灯台を左舷正横に見る予定転針地点まであと15分程度で到達することから,短時間のうちに居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いすに腰掛けた姿勢をとり続けて居眠りに陥り,予定転針地点に達したことに気付かず,速吸瀬戸南西部の牛島東岸に向首進行して乗揚を招き,バルバスバウに小破口を伴う凹損並びに右舷船首船底及びファッションプレートに凹損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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