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平成18年広審第26号
件名

遊漁船八幡丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年8月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(橋本 學)

理事官
竹内伸二

受審人
A 職名:八幡丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船首船底に破口
釣り客1人が顔面多発骨折等

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月6日23時45分
 島根県沖ノ御前島
 (北緯35度35.4分 東経133度21.0分)

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船八幡丸
総トン数 9.97トン
登録長 13.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 250キロワット

3 事実の経過
 八幡丸は,昭和54年12月に進水した,レーダー設備を有しない航海速力17.0ノットのFRP製遊漁船で,平成16年11月に交付された一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み,釣り客6人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同17年8月6日18時30分島根県軽尾港を発し,同県地蔵埼北東方沖合約2海里にある沖ノ御前島周辺の釣り場へ向かった。
 ところで,沖ノ御前島は,その中心部に灯高14メートル,光達距離8海里,灯質単閃白光,明滅間隔毎3秒の沖ノ御前島灯標が設置されている孤立した岩礁のような小島であるが,同島の周囲は好漁場となっていることから,A受審人は,その近くで何回も遊漁を行ったことがあり,同海域の水路事情については十分に承知していた。
 18時50分A受審人は,釣り場に到着したのち,装備しているGPSに入力してあった過去に釣果が多かった地点などを参考にして錨泊場所を選び,19時20分沖ノ御前島東方0.3海里付近の水深40ないし45メートルの地点で,直径22ミリメートルの化学繊維製ロープを錨索として結んだ重さ約50キログラムの鋼製錨を投下し,同索を70メートルばかり延出して船首に舫い,船尾のスパンカーを展張して遊漁を始めた。
 そして,A受審人は,同錨泊地点で4時間ばかり遊漁を行ったのち,夜半前に発航地に帰着できるよう,23時30分錨を揚げて機関を微速力前進にかけ,東方を向いていた船首を左回頭して西方へ向けたところ,真っ直ぐに軽尾港へ向かう進路に当たる沖ノ御前島の北方から西方へかけての海域には,多数の遊漁船や漁船が漂泊又は錨泊していたことから,南側に離れた迂回路を選択して帰航することに決め,23時44分沖ノ御前島灯標から037度(真方位,以下同じ。)340メートルの地点で,美保関灯台の灯光をやや右舷船首方に見る217度の針路に定め,機関を経済速力の回転数毎分1,700にかけ,11.0ノットの速力で,法定灯火を表示して,手動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき,A受審人は,前示灯標が設置されている沖ノ御前島が正船首方340メートルのところに位置することとなり,そのまま続航すると同島に乗り揚げるおそれがある状況となったが,右舷側に存在した多数の遊漁船や漁船が点灯する強い明かりと,やや右舷船首方で明滅している美保関灯台の強烈に明るい灯光に気を取られ,GPSを活用するなりして船位の確認を十分に行わなかったので,当該状況となったことに気付かなかった。
 こうして,A受審人は,その後も船位の確認を十分に行うことなく進行したところ,23時45分わずか前沖ノ御前島至近まで接近し,乗揚の危険がある状況となったが,既に沖ノ御前島灯標の実光が見えない範囲にまで迫っていたことから,依然として,同島に向首していることに気付かないまま続航中,23時45分八幡丸は,原針路,原速力で,沖ノ御前島灯標直下の岩礁に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,船首船底に破口を生じるとともに,釣り客の1人が顔面多発骨折等の傷を負った。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,島根県地蔵埼北東方沖合において,釣り場から発航地へ向けて帰航中,船位の確認が不十分で,沖ノ御前島に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,島根県地蔵埼北東方沖合において,釣り場から発航地へ向けて帰航する場合,進路の近くに沖ノ御前島が存在していたのだから,同島に乗り揚げないよう,GPSを活用するなりして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,右舷側に存在した多数の遊漁船や漁船が点灯する強い明かりと,やや右舷船首方で明滅している美保関灯台の強烈に明るい灯光に気を取られ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,沖ノ御前島に向首進行して乗揚を招き,船首部船底に破口を生じさせるとともに,釣り客の1人に顔面多発骨折等の傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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