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平成18年広審第40号
件名

貨物船高砂丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年8月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(原 清澄,島 友二郎,藤岡善計)

理事官
竹内伸二

受審人
A 職名:高砂丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船首船底部外板に破口を生じて船倉に浸水,のち沈没

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月10日01時23分
 愛媛県南宇和郡愛南町南西沖合
 (北緯32度52.65分 東経132度27.15分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船高砂丸
総トン数 199トン
全長 58.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 高砂丸は,平成4年12月に進水した,航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型鋼製貨物船で,航海計器としてジャイロコンパス,レーダー2台及び衛星航法装置などを装備していた。
 また,運動性能については,旋回径が全長の約2倍で,停止距離が約5倍であった。

3 事実の経過
 高砂丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,飼料とするトウモロコシ680トンを積載し,船首2.60メートル船尾3.60メートルの喫水をもって,平成17年9月8日17時00分三重県四日市港を発し,関門港に向かった。
 翌々10日00時16分A受審人は,柏島灯台から212度(真方位,以下同じ。)1.20海里の地点に達したとき,針路を318度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,自動操舵により進行した。
 00時36分半A受審人は,柏島灯台から297度3.25海里の,黒碆北東方沖合のいつもの転針予定地点に達したが,進路方向の鵜来島東方沖合に6隻ばかりの操業中の漁船群を認めたので,同漁船群を替わしてから針路を転じることとし,318度の針路を保ったまま続航した。
 ところで,高砂丸の予定針路線至近にあたる,高茂埼灯台南西方沖合には,沖ノ磯と称する高さ21メートルの水上岩及びその南方500メートル付近に高さ0.1メートルの水上岩がそれぞれ存在し,それらの周辺には水深2メートル以下の浅所が拡延し,本件時,沖ノ磯周辺に数隻の漁船が停留して操業を行なっており,同磯のレーダー映像と同漁船群のレーダー映像との識別が困難な状況となっていた。
 00時59分半A受審人は,高茂埼灯台から156度4.60海里の地点に達したとき,左舷方に鵜来島沖合の漁船群を無難に航過したので,いつもの308度の針路に転じたところ,沖ノ磯南方の浅所に向首する状況となったが,3海里レンジとしたレーダー画面を一瞥しただけで,沖ノ磯と思われるレーダー映像と自船との相対位置関係から判断し,目見当で同磯の西方0.5海里ばかりに自船が向首しているので大丈夫と思い,レーダーなどを使用して他の物標で求めた情報を海図に記入して船位の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 01時21分A受審人は,高茂埼灯台から208度2.05海里の地点に達したとき,正船首620メートルのところに沖ノ磯南方の浅所が存在したが,依然として船位の確認を行っていなかったので,このことに気付かず,原針路を保ったまま進行した。
 こうして,高砂丸は,A受審人が船位を確認せず,沖ノ磯南方の浅所に向首していることに気付かないまま続航中,01時23分高茂埼灯台から215度2.16海里の沖ノ磯南方の浅所に,原針路,原速力で乗り揚げ,これを乗り切った。
 当時,天候は曇で風力2の北風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果,船首船底部外板に破口を生じて船倉に浸水し,13時56分愛媛県由良岬の沖合500メートルばかりの地点で沈没した。

(本件発生に至る事由)
1 レーダー映像で沖ノ磯と同磯付近で停留していた漁船との区別が付かなかったこと
2 船位を確認していなかったこと
3 沖ノ磯と自船との相対位置関係を目見当で判断したこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,単独の船橋当直にあたって高知県宿毛湾を関門港に向けて北上中,船位の確認を十分に行っていれば,高茂埼灯台の南西方に存在する沖ノ磯南方の浅所に向首して航行しているのが分かったのであり,本件の発生を未然に防止できたものと認められる。
 従って,A受審人が,レーダーを一瞥して沖ノ磯と自船の相対位置関係を目見当で判断し,沖ノ磯の西方0.5海里ばかりに向首しているので大丈夫と思い,船位を確認しなかったことは本件発生の原因となる。
 また,沖ノ磯と同磯付近に停留して操業中の漁船群との区別が付かなかったことは本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,高知県宿毛湾を関門港に向けて北上中,船位の確認が不十分で,沖ノ磯南方の浅所に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,高知県宿毛湾を関門港に向けて北上する場合,沖ノ磯南方の浅所に著しく接近することのないよう,レーダーなどを使用して他の物標で求めた情報を海図に記入し,船位を確認すべき注意義務があった。しかるに,同人は,沖ノ磯のレーダー映像と自船との相対位置関係を目見当で判断し,同磯の西方0.5海里ばかりに向首しているので大丈夫と思い,船位を確認しなかった職務上の過失により,沖ノ磯南方の浅所に向首進行して乗揚を招き,船首船底部外板に破口を生じさせ,沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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