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平成17年横審第105号
件名

貨物船サニー スター乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年7月13日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(米原健一,清水正男,古川隆一)

理事官
西田克史

指定海難関係人
A 職名:サニー スター水先人(事件当時)

損害
バルバスバウ先端に破口と亀裂を伴う凹損,船首部船底外板に擦過傷

原因
針路選定不適切,行きあしを止める措置不十分

主文

 本件乗揚は,航路に入る際,針路の選定が不適切で,航路によって航行しなかったばかりか,航路の外に出た際,行きあしを止める措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月5日12時20分
 大阪府阪南港
 (北緯34度30.5分 東経135度22.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船サニー スター
総トン数 16,766トン
全長 169.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 5,736キロワット
(2)設備及び性能等
 サニー スター(以下「サ号」という。)は,平成8年愛媛県今治市で建造され,船首端から船橋前面までの長さが143メートルの船尾船橋型貨物船で,操舵室には中央部に操舵スタンドが,その右舷側にエンジンコンソールが,左舷側にレーダー2台がそれぞれ備えられていた。
 操縦性能は,航海速力が14ノットで,機関を港内全速力前進にかけると約10ノットに,半速力前進にかけると約8ノットになり,操縦性能表写によれば,バラストコンディションで機関を半速力前進にかけて8.7ノットで進行中,90度回頭したときの縦距が左旋回時425メートル右旋回時410メートル,横距が左旋回時230メートル右旋回時220メートルで,全速力後進を発令して船体が停止するまでに670メートル航走し,時間は4分30秒を要した。

3 阪南港の状況及びA指定海難関係人の入航操船計画について
 阪南港は,大阪府の泉北郡忠岡町,岸和田市,貝塚市及び泉佐野市の各自治体にまたがる,大阪湾東岸中南部に位置した港で,北側から順に,第1区,第2区及び第3区に分かれており,大阪湾水先区の水先人が同港における入出航操船を行っていた。
 阪南港第1区は,北部が大津川の河口にあたり,同川右岸を境界線として大阪港堺泉北区に接し,南部には新西防波堤が南北方向に築造されてその東側が木材地区泊地になっており,第1区の北西部から同泊地に至る海域に岸和田航路が設けられ,同泊地や同航路など同区のほとんどの海域では水深が12メートルを超えていたものの,同航路西側の一部や同航路北口東方1,000メートルの同川河口に近いところでは水深10メートル以下の浅所が存在していた。
 岸和田航路は,泉大津沖埋立処分場2号灯(以下「処分場2号灯」という。)の南西方沖合700メートルを北口とし,同地点から150度(真方位,以下同じ。)方向に1,400メートル延び,さらに180度方向に1,160メートル延びる幅250メートルの航路で,北口には北側境界線(以下「北境界線」という。)の東端を示す阪南港岸和田航路第1号灯浮標(以下,灯浮標の名称に冠する「阪南港岸和田航路」を省略する。)が処分場2号灯から231度580メートルの地点に,西端を示す第2号灯浮標が処分場2号灯から233.5度840メートルの地点にそれぞれ設置され,第1号灯浮標から東方の大津川右岸の最も近い護岸までは600メートルの距離があった。
 A指定海難関係人は,友ケ島水道から阪南港第1区の木材地区泊地に入航する際,大阪湾を北上して北境界線の北西方1,200メートル付近に至り,同地点から岸和田航路に沿う150度の針路とし,第1号灯浮標と第2号灯浮標との中間から同航路に入る操船計画を立てていた。

4 事実の経過
 サ号は,船長Bほか19人が乗り組み,丸太9,259本を積載し,船首6.93メートル船尾8.15メートルの喫水をもって,平成17年3月4日07時00分千葉港を発し,阪南港第1区の木材地区泊地に向かい,翌5日09時27分友ケ島水道南方約7海里の水先人乗船地点に至ってA指定海難関係人(平成17年3月11日大阪湾水先区水先免状を返納して廃業した。)を乗せ,同人きょう導のもと,大阪湾を北上した。
 A指定海難関係人は,パイロットカードや操舵室の掲示板を見たものの,B船長にサ号の操縦性能を確認しないで操船にあたり,11時55分第2号灯浮標西方約2海里の海域に達したとき,北境界線の北西方に向かうことができる十分な広さの海域が存在していたものの,右舷前方1.5海里の予定針路線間近に大型船2隻が錨泊しているのを認めて操船計画を変更することとし,操縦性能や航路幅などを考慮すると,同灯浮標の至近では大角度の右転を行って岸和田航路に入り,同航路によって航行することができないおそれがあったが,タグボートを使用すれば同灯浮標の至近でも大角度の右転ができるものと思い,錨泊船を迂回して北境界線の北西方から航路に沿う針路とするなど,針路の選定を適切に行うことなく,右転して西方から北境界線に向かった。
 11時59分半A指定海難関係人は,処分場2号灯から259度1.92海里の地点で,針路を第1号灯浮標と第2号灯浮標との中間に向く085度に定め,機関を港内全速力前進にかけて10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 A指定海難関係人は,B船長及び三等航海士が操船の補佐に,操舵手2人のうち1人が操舵に,他の1人が見張りにそれぞれあたる状況のもと,12時05分少し過ぎ処分場2灯から253度1,800メートルの地点に差し掛かったとき,機関を半速力前進にかけて7.0ノットの速力とし,12時07分少し前待機させていたタグボート2隻のうち1隻を左舷船尾に取り,もう1隻に先導させて続航した。
 12時10分A指定海難関係人は,処分場2号灯から237度820メートルの,第2号灯浮標を右舷正横60メートルに見る地点に至ったものの,左舷船首方に見える第1号灯浮標までの距離が短く,タグボートを使用してもサ号の船尾が同灯浮標に衝突するものと判断し,岸和田航路に沿う針路に転じることができず,左舷ウイングに移動して同灯浮標に視線を向け,同じ針路のまま,右転開始の時機を窺いながら北境界線を斜めに横切り,同航路を斜航した。
 A指定海難関係人は,12時11分少し過ぎ岸和田航路の東側境界線を横切ってその東側に出たとき,そのまま同航路によらないで進行すると左舷船首方750メートルの大津川右岸の護岸や右舷船首方1,000メートルの同川河口の浅所に著しく接近するおそれがあったが,第2号灯浮標に並行したところで同航路に沿う針路に転じることができなかったことから気が動転し,直ちにタグボートを使用するなり,機関を全速力後進にかけるなど,行きあしを止める措置を十分にとることなく,第1号灯浮標が船尾を替わったのを見て操舵室に戻り,その後右舵15度をとって回頭しながら同航路東側の海域を進行するうち,同護岸に接近するとともに,次第に同川河口の浅所に向首する状況となった。
 12時14分A指定海難関係人は,処分場2号灯から161度520メートルの地点に達したとき,期待していた舵効が得られないでゆっくりと右回頭を続けることから,タグボートに左舷船尾を左舷正横方に引くよう指示したものの,すでに大津川右岸の護岸までの海域に十分な余裕がなく,タグボートが左舷船尾を左舷正横方に引くことができないまま,なおもゆっくりと右回頭を続けながら同川河口の浅所に接近した。
 A指定海難関係人は,12時15分半右舷船首方420メートルのところに迫った大津川左岸の護岸を見て乗揚の危険を感じ,右舵一杯をとり,12時16分少し過ぎB船長に促されて機関を全速力後進にかけたが,及ばず,12時20分処分場2号灯から151度1,220メートルの地点において,サ号は,198度に向首し,ほぼ行きあしが止まったとき,大津川左岸至近の浅所に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で弱い北寄りの風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 乗揚の結果,バルバスバウ先端に破口と亀裂を伴う凹損及び船首部船底外板に擦過傷を生じたが,タグボート2隻によって引き下ろされ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 パイロットカードや操舵室の掲示板を見たものの,船長にサ号の操縦性能を確認しなかったこと
2 予定針路線間近に大型船2隻が錨泊していたこと
3 タグボートを使用すれば第2号灯浮標の至近でも大角度の右転ができるものと思い,針路の選定を適切に行わず,岸和田航路によって航行しなかったこと
4 岸和田航路の東側に出たこと
5 岸和田航路の東側に出た際,行きあしを止める措置が十分でなかったこと

(原因の考察)
 本件は,針路の選定が適切に行われていれば,岸和田航路によって航行して乗り揚げることはなく,また,同航路の東側に出た際,行きあしを止める措置を十分にとっていれば,乗揚を回避できたものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,岸和田航路に入る際,タグボートを使用すれば第2号灯浮標の至近でも大角度の右転ができるものと思い,針路の選定を適切に行わず,同航路によって航行しなかったこと及び同航路の東側に出た際,行きあしを止める措置が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人が,パイロットカードや操舵室の掲示板を見たものの,船長にサ号の操縦性能を確認しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正すべき事項である。
 予定針路線間近に大型船2隻が錨泊していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同錨泊船が存在していても,北境界線の北西方から岸和田航路に沿う針路に転じることができる十分な広さの海域が存在していたものと認められるので,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 岸和田航路の東側に出たことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同航路の東側に出たとき直ちにタグボートを使用したり,機関を全速力後進にかけるなどすれば乗り揚げなかったものと認められるので,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,大阪府阪南港において,岸和田航路に入る際,針路の選定が不適切で,同航路によって航行しなかったばかりか,同航路の外に出た際,行きあしを止める措置が不十分で,大津川左岸至近の浅所に向け進行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,大阪府阪南港において,サ号のきょう導にあたって岸和田航路に入る際,針路の選定が不適切で,同航路によって航行しなかったばかりか,同航路の外に出た際,行きあしを止める措置が不十分で,大津川左岸至近の浅所に向け進行したことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,大阪湾水先区水先免状を返納して廃業したことに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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