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平成18年函審第16号
件名

漁船第五十一立昇丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年7月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(西山烝一,井上 卓,堀川康基)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:第五十一立昇丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第五十一立昇丸漁ろう長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船底外板等損傷,推進器翼に曲損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月29日18時52分
 北海道志発島西岸沖合
 (北緯43度29.7分 東経146度05.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名漁船 第五十一立昇丸
総トン数 180トン
全長 37.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 753キロワット
(2)設備及び性能等
 第五十一立昇丸(以下「立昇丸」という。)は,昭和53年4月に進水した沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で,毎年8月から翌年5月の間北方四島付近ですけとうだら漁を行っていた。同船は,操舵室中央に舵輪,右舷側にレーダー2台,左舷側にGPSプロッタ3台及び魚群探知機2台が備えられ,海図W38(色丹島付近)を所持していた。

3 事実の経過
(1)ロシア警備艇などによる臨検について
 ロシア連邦が主張する排他的経済水域内(北方四島のオホーツク海側と太平洋側)で,漁獲物などの採取及び海洋資源調査を行う日本船に対し,ロシア警備艇やロシア漁業取締船に乗船している検査官が洋上で臨検を行っている。
 臨検は,前示水域内の洋上にある22箇所(名称東−1〜22)のチェックポイントのいずれかの地点で,ロシア警備艇などからVHF16チャンネルを使用して臨検の呼出があり,チェックポイントの半径2海里の海域で,検査官が同艇のゴムボート(以下「ゴムボート」という。)で日本漁船に来船して行われている。往航時に臨検されることは少なく,操業後の帰航中は天候が悪くなければ必ず行われていた。
 立昇丸の臨検は,従来,歯舞諸島秋勇留島の南東方沖合で,東−10(北緯43度05分,東経146度15分)と称するチェックポイントで行われ,その内容は,漁獲重量,違反の漁獲物の積載,操業日誌,操業許可証などの検査であった。
(2)乗揚に至る経緯
 立昇丸は,A,B両受審人ほか14人が乗り組み,ロシア公務員1人を監督官として乗せ,操業の目的で,平成17年3月27日16時00分北海道花咲港を発し,択捉島南西部の南東岸沖合30海里ばかりの漁場に向かった。
 A受審人は,翌28日04時ごろ前示漁場に着き,操業を開始してすけとうだらなど約30トンを漁獲して操業を終え,船首2.5メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,16時00分ウエンシリ岬灯台から161度(真方位,以下同じ。)36.0海里の地点を発進して帰航の途に就いた。
 23時ごろA受審人は,色丹島南方沖合を南下していたところ,ロシア警備艇から呼出があり,荒天が予想されることから,従来の臨検場所と違う志発島西岸沖合で臨検を行うとの指示を受け,同艇から水先案内人がC丸に乗船し,同船を先頭に僚船7隻とともに多楽水道を北方に向け通過し,翌29日05時40分志発島三角埼灯台(以下「志発島灯台」という。)から246度6.9海里の地点に着き,投錨して臨検のため待機した。
 17時00分天候が少し回復してきたので,ロシア警備艇による臨検がC丸から開始され,同船の臨検が終了したあと,A受審人は,17時30分臨検を行うとの連絡を受けて揚錨し,投錨している同船の左舷方至近に向けて進行し,検査官が乗ったゴムボートが接近したとき,機関を中立運転とし,17時40分志発島灯台から240度6.0海里の地点で3人の検査官を乗船させた。
 A受審人は,検査官の要請により,漂泊して臨検を受けることとしたが,船橋に残るB受審人が海技免許を受有しているので,同人に任せておいて大丈夫と思い,折から強い南西風が吹いて波浪も高く,陸岸に向け圧流されるおそれのある状況下,危険な事態に陥るかどうか判断できるよう,自ら船橋当直に就くことなく,A受審人でなくても魚倉の検査に立ち会うことができたものの,通信長と検査官とともに魚倉に向かった。
 一方,B受審人は,魚倉で検査が行われている間,A受審人に替わって在橋していたが,それほど圧流されることはないと思い,レーダーによる船位の確認を十分に行わなかったので,臨検中,立昇丸が北東方に向けて圧流され,浅所域に接近する状況となったものの,このことに気付かず,A受審人に報告しなかった。
 A受審人は,魚倉での検査が終わったあと昇橋し,検査官による操業日誌等の検査に立ち会い,18時30分必要書類に署名したとき,立昇丸が志発島灯台から243度5.5海里の地点の,5メートル等深線付近まで圧流されていたものの,その後も検査官の応対に追われていたので,B受審人に指示するなど,依然として船位の確認が不十分で,浅所に向け圧流され続けていることに気付かなかった。
 18時50分ごろゴムボートが到着して検査官が下船したとき,立昇丸が北北東を向き,水深2メートルの等深線まで80メートルばかりに接近していたが,A受審人は,臨検中の僚船を沖合で待つため,18時51分機関を微速力前進にかけ,少し前進したあと左舵一杯を取ったところ,立昇丸は,18時52分志発島灯台から244度5.3海里の浅所に,船首が北を向き,約5ノットの対地速力で乗り揚げた。
 当時,天候は雪で風力6の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期に当たり,潮高は約120センチメートルで,波高は約4メートルであった。
 乗揚の結果,船底外板に一部亀裂を伴う凹損,ビルジキール及び魚群探知機ケースなどに損傷,プロペラに曲損を生じたが,ロシア警備艇の支援により引き降ろされて僚船と一緒に帰港し,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 陸岸に近いところで漂泊して臨検が行われたこと
2 A受審人が,B受審人に任せておいて大丈夫と思い,自ら船橋当直に就かなかったこと
3 B受審人に対し船位の確認を行うよう指示しなかったこと
4 B受審人が,それほど圧流されることはないと思い,船位の確認を十分に行わなかったこと
5 陸岸に向け強い南西風が吹いて波浪も高かったこと

(原因の考察)
 本件は,折からの強風と波浪も高い状況下,志発島西岸に近い海域で,漂泊してロシア警備艇による臨検を受けることとなったが,船位の確認を十分に行っていれば,浅所域への圧流模様を把握することができ,危険であれば機関を操作して沖出しを行い,乗揚を回避できたものと認められる。
 このような状況下では,陸岸に向け圧流されることは十分に予想されたが,A受審人が,B受審人に任せておいて大丈夫と思い,立昇丸が危険な事態に陥るかどうか判断するため,船位の確認などを行えるよう,自ら船橋当直に就かなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,漁ろう長の職務に就いているとはいえ,海技免許を受有しているのであるから,このような気象及び海象下で漂泊中であれば,陸岸に向け圧流されることが予見でき,圧流模様を把握する必要があったが,それほど圧流されることはないと思い,船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,B受審人は,当時の状況により,圧流されることが認識できたのであるから,船長の指示がなくても,海技従事者である同受審人が船位の確認を行うべきであり,したがって,A受審人が,B受審人に対し船位の確認を行うよう指示しなかったことは,本件発生の原因とするまでもない。
 陸岸に近いところで漂泊して臨検が行われたこと,陸岸に向け強い南西風が吹いて波浪も高かったことについては,他の僚船も同じ状況下の海域で漂泊して同じ時間帯に行われており,特に危険な事態に陥っていないことから,いずれも本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,北海道志発島西岸沖合において,陸岸に向け強風が吹いて波浪も高い状況下,漂泊してロシア警備艇による臨検を受ける際,船位の確認が不十分で,浅所に向け圧流されたことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,自ら船橋当直に就かなかったことと,在橋中の漁ろう長が,船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,北海道志発島西岸沖合において,陸岸に向け強風が吹いて波浪も高い状況下,漂泊してロシア警備艇による臨検を受ける場合,浅所に向け圧流されるおそれがあったから,危険な事態に陥るかどうか判断できるよう,自ら船橋当直に就くべき注意義務があった。しかし,同受審人は,B受審人が海技免許を受有しているので,同人に任せておいて大丈夫と思い,自ら船橋当直に就かなかった職務上の過失により,浅所に向け圧流されていることに気付かずに同所へ乗り揚げる事態を招き,船底外板の一部に亀裂を伴う凹損など,ビルジキール及び魚群探知機ケースに損傷並びにプロペラに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,北海道志発島西岸沖合において,陸岸に向け強風が吹いて波浪も高い状況下,ロシア警備艇による臨検中,漂泊しながら在橋する場合,浅所への圧流模様を判断できるよう,レーダーによる船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同受審人は,それほど圧流されることはないと思い,レーダーによる船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,浅所に向け圧流されていることに気付かず,A受審人に報告することができずに乗り揚げる事態を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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