日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成18年門審第54号
件名

貨物船ニューなんせい台船義光号衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(向山裕則)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:ニューなんせい船長 海技免許:二級海技士(航海)
B 職名:第三十一昇竜丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
ニューなんせい・・・右舷船首部外板に破孔及び凹損等,右舷錨鎖が切断
義光号・・・右舷船首部に凹損等

原因
ニューなんせい・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
義光号・・・法定灯火不表示,適切な錨地を選定しなかったこと(一因)

裁決主文

 本件衝突は,ニューなんせいが,見張り不十分で,錨泊中の義光号を避けなかったことによって発生したが,義光号が,法定の灯火を表示しなかったばかりか,適切な錨地を選定しなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月2日21時05分
 鹿児島港
 (北緯31度27.8分 東経130度31.5分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船ニューなんせい 台船義光号
総トン数 499トン  
全長 74.20メートル 45.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  

3 事実の経過
(1)ニューなんせい
 ニューなんせい(以下「なんせい」という。)は,平成15年11月に進水した,船尾に船橋を有する平甲板型貨物船で,船首部中心線上に直径1.1メートル(m)のデリックポスト,船橋前部に門型デリック,及び船橋上部に後部マストを設けていた。後部マストにはレーダーアンテナを装備し,各デリックポストとほぼ同じ高さであったこともあって,レーダーは偽像を捕捉することが多く,船橋中央部の操舵位置から,デリックポストによって正船首方左右各1.5度の水平範囲に死角が生じていた。
(2)義光号
 義光号は,平成9年に建造された台船で,船尾部に発電機室を設け,甲板上には,前部両舷に係留索用ウインチ,後部両舷に錨鎖及び係留索兼用ウインチ,後部右舷側に同室用コンパニオン,船尾中央にランプウェイ用甲板上高さ7mのポスト2本及び幅8mで長さ2mのフラップ部を含む全長10mのランプウェイ,両舷に高さ70センチメートルのボラード各5個及び船首尾にフェアリーダー合計6個を備え,移動するときには,総トン数179.78トンの引船第三十一昇竜丸(以下「昇竜丸」という。)によって引かれていた。
(3)鹿児島港谷山2区
 鹿児島港谷山2区は,鹿児島港谷山2区南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)と鹿児島港谷山2区東防波堤灯台との間を港口とし,その西方における東西及び南北の約0.7海里四方海域(以下「港内海域」という。)が北側,西側及び南側にある岸壁によって囲まれ,港内海域の北西部から南に向かって第1,第2及び第3の各突堤があり,港内海域の北部を通過して各突堤に出入りする船舶が多く,南部における船舶交通は少なかった。そして,義光号は鹿児島港谷山2区を基地としており,無人のまま同区に錨泊することが多かった。
(4)衝突に至る経緯
 なんせいは,A受審人ほか4人が乗り組み,平成17年9月2日14時00分南防波堤灯台から277度(真方位,以下同じ。)1.47海里の第3突堤の南フェリー岸壁において097度に向首して出船係留で入港したのち,コンテナ及び雑貨等140トンを揚げ,280トンを積み,船首3.00m船尾4.05mの喫水で,鹿児島県西之表港に向かうため,20時55分出港準備を始めた。
 A受審人は,船橋で指揮を執って出港準備に当たり,一等航海士及び一等機関士を船首に,機関長及び甲板員を船尾にそれぞれ配置し,レーダー2台を作動中,正船首720mのところに,義光号の映像を認めたが,同映像は偽像で確かめるまでもないものと思い,双眼鏡を使うなどの見張りを十分に行わなかったので,同号の灯火に気付かなかった。
 21時00分A受審人は,係留索を放って離岸し,法定の灯火を表示し,操舵位置に立って出航操船を始め,機関を微速力前進にかけ,南防波堤灯台に向首する097度に針路を定め,手動操舵によって徐々に増速しながら進行しているうち,折からの台風接近に備えて荒天対策作業を行わせるため,前部マスト及び船橋前部両舷に各200ワットの作業灯を点灯していたうえ,前部マストによる死角もあって,前方に存在する義光号の灯火が見難い状況となっていた。
 21時03分A受審人は,南防波堤灯台から277度1.29海里の地点に至ったとき,6.0ノットの対地速力で,義光号が正船首370mのところに接近していたが,依然,見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず,左転するなど同号を避けることなく続航し,なんせいは,21時05分南防波堤灯台から277度1.08海里の地点において,同じ針路及び速力のまま,その右舷船首と義光号の右舷船首角部が平行状態で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の南東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 また,義光号は,台風を避難するため,船首尾とも0.6mの等喫水で,B受審人ほか3人が乗り組んだ昇竜丸に引かれ,同日09時40分鹿児島県志戸子漁港を発し,鹿児島港谷山2区に向かった。
 B受審人は,夜間の航海及び停泊中,義光号に法定灯火を表示せず,4隅にあるフェアリーダー及び船体中央部両舷のボラードに乾電池電源の発光ダイオードによる青又は黄色点滅式の自動点灯式保安灯(以下「簡易標識灯」という。)合計6個を,並びにコンパニオン付近甲板上2mに紅色閃光式の簡易標識灯1個をそれぞれ固縛しており,日没となって簡易標識灯の点灯を確認した。
 20時20分B受審人は,昇竜丸の船橋で操船に当たって鹿児島港谷山2区の港口に入り,義光号を錨泊させることとし,平素錨泊させていた港内海域のほぼ中央部に,5,000トン級の浮ドック2基が東西に錨泊していたことから,平素錨泊させていた場所付近であれば問題ないものと思い,同浮ドックの南方などの船舶交通が少ない適切な錨地を選定せず,20時40分港内海域北部の衝突地点に至り,義光号に移乗したのち,左舷船尾から投錨して錨鎖を3節延出し,同号を無人として昇竜丸に戻り,第1突堤の北3号岸壁に同船を着岸したのち船内で休息した。
 21時05分義光号は,折からの風及び潮流によって277度に向首していたとき,前示のとおり衝突した。
 B受審人は,昇竜丸に乗船しており,翌3日株式会社C社からの連絡を受けて衝突を知った。
 衝突の結果,なんせいは,右舷船首部外板に破孔及び凹損等並びに右舷錨鎖の切断を生じ,義光号は,右舷船首部に凹損等を生じたが,のち,両船とも修理された。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,鹿児島港谷山2区において,出航するなんせいが,見張り不十分で,錨泊中の義光号を避けなかったことによって発生したが,義光号が,法定の灯火を表示しなかったばかりか,適切な錨地を選定しなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,鹿児島港谷山2区において,出港準備に当たる場合,近距離のところにレーダー映像を認めていたのであるから,前方の障害物等を見落とさないよう,双眼鏡を使うなどの見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同映像は偽像で確かめるまでもないと思い,双眼鏡を使うなどの見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,義光号の灯火に気付かず,離岸して間もなく同号との衝突を招き,なんせいの右舷船首部外板に破孔及び凹損等並びに右舷錨鎖の切断を,義光号の右舷船首部に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,鹿児島港谷山2区において,義光号を引いて錨泊させようとする場合,船舶交通が少ない適切な錨地を選定すべき注意義務があった。しかるに,同人は,浮ドック2基が港内海域のほぼ中央部に錨泊していたことから,平素錨泊させていた場所付近であれば問題ないものと思い,船舶交通が少ない適切な錨地を選定しなかった職務上の過失により同号となんせいとの衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:22KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION