日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成18年門審第60号
件名

漁船第八大豊丸貨物船ハッピースター衝突事件
第二審請求者〔補佐人a〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(阿部直之,安藤周二,片山哲三)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第八大豊丸甲板員 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a,b,c,d

損害
第八大豊丸・・・船首部を圧壊
ハッピースター・・・右舷後部外板に擦過傷

原因
ハッピースター・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第八大豊丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,ハッピースターが,動静監視不十分で,前路を左方に横切る第八大豊丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第八大豊丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月24日02時25分
 対馬北東方沖合
 (北緯34度49.3分 東経129度35.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第八大豊丸 貨物船ハッピースター
総トン数 19トン 3,997トン
全長   107.02メートル
登録長 17.03メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 433キロワット 3,353キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第八大豊丸
 第八大豊丸(以下「大豊丸」という。)は,昭和54年3月に進水したFRP製漁船で,船体中央やや後方の操舵室に,レーダー2台,自動操舵装置の付いた磁気コンパス組込み式操舵スタンド,機関操縦盤,GPS装置,魚群探知機及び漁業用無線機がそれぞれ装備され,同室後壁にモーターホーンスイッチが設置され,操舵スタンドの右後方にいすが置かれていた。
イ ハッピースター
 ハッピースター(以下「ハ号」という。)は,1996年に大韓民国で建造された,日本と大韓民国との間の定期航路に就航する船尾船橋型鋼製コンテナ船で,操舵室前部操作台の中央部に操舵スタンド,右舷側に機関操縦盤及び1号レーダー,左舷側に船灯及び霧中信号制御盤がそれぞれ組み込まれ,同台の左舷方にGPSと連動した2号レーダーが装備されており,同室の右舷後部海図台上方にGPS装置,右舷前部窓際に昼間信号灯が備えられていた。
 海上試運転成績書によれば,機関回転数毎分204での速力が16.37ノットで,同速力前進中における左旋回時の縦距は314メートル,横距は235メートル,同右旋回時の縦距は342メートル,横距は196メートルで,最短停止距離は932メートル,同所要時間は3分52秒であった。

3 事実の経過
 大豊丸は,船団の運搬船の業務に従事しており,B船長及びA受審人が乗り組み,船首1.00メートル船尾1.85メートルの喫水をもって,平成17年6月23日16時00分一重漁港を発し,対馬東方沖合約5海里の漁場に向かい,同漁場に至って船団所属船5隻とともに魚群の探索を行った。
 A受審人は,出港後,甲板上で漁具の整理等を行い,21時30分ごろ操舵室後部寝台で就寝し,翌24日00時00分大型船に注意して見張りを十分に行うようにとのB船長からの引継ぎを受けたのち,船橋当直を交替した。
 船橋当直交替時,A受審人は,レーダーで周囲を確認して他船を認めなかったことから,その後レーダー画面を見ることなく,目視により見張りにあたった。
 A受審人は,操舵室後部寝台でのB船長の休息を妨げないよう,00時30分作動音が気になる自動から静かな手動に操舵を切り替え,船団の漁場移動に伴って北上中,01時00分三島灯台から111度(真方位,以下同じ。)7.2海里の地点に差し掛かったとき,先行する網船から魚影が見つからないとの連絡を受け,針路を004度に定め,速力を9.0ノット(対地速力,以下同じ。)から半速力前進の6.0ノットに減じたのち,操業取りやめなどについての考え事をしながら進行した。
 02時18分A受審人は,三島灯台から055度8.8海里の地点に達したとき,左舷船首41度2.0海里のところにハ号の白,白,緑3灯を視認することができる状況であったが,磁気コンパスの示度を注視し,同船の存在に気付かないまま続航した。
 02時22分A受審人は,三島灯台から053度9.1海里の地点に至ったとき,ハ号が左舷船首50度1,550メートルのところで,針路を115度に転じ,その後方位に変化がなく,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,接近する他船はいないものと思い,依然考え事をしながら周囲の見張りを十分に行っていなかったので,この状況に気付かず,02時23分少し過ぎハ号との距離が0.5海里となったものの,警告信号を行うことも,更に間近に接近したとき右転するなり,機関を後進にかけ行きあしを止めるなりして衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 02時25分わずか前休息中のB船長が,ハ号の汽笛を聞いて船首方至近に同船の船影を認め,A受審人に代わって自ら左舵一杯をとったが効なく,02時25分三島灯台から051度9.3海里の地点において,大豊丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,ハ号の右舷後部に前方から69度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の西南西風が吹き,視界は良好であった。
 また,ハ号は,大韓民国籍のC船長ほか同国籍船員8人及び中華人民共和国籍船員5人が乗り組み,コンテナ130個を積載し,船首6.20メートル船尾6.60メートルの喫水をもって,同年6月23日23時55分大韓民国釜山港を発し,宮崎県細島港に向かった。
 翌24日02時00分船橋当直中のハ号二等航海士(以下「二等航海士」という。)は,三島灯台から018度10.1海里の地点で,針路を135度に定め,13.8ノットの速力で自動操舵によって進行した。
 二等航海士は,02時13分三島灯台から034度9.2海里の地点で,右舷船首11度3.5海里のところに大豊丸の白1灯を初認し,その灯火の状況等から同船が小型漁船であると認めて見守るうち,02時18分同灯台から041度9.0海里の地点に達したとき,同船の白,紅2灯を右舷船首8度2.0海里に認め,距離が狭まる状況に変わりがなかったので,同船に向けて昼間信号灯を照射し,引き続き目視により見守った。
 02時21分半二等航海士は,大豊丸の動静が十分に分からないまま,同船との距離を空けるつもりで,操舵手に命じて針路を10度左に転じて125度とし,02時22分三島灯台から047度9.0海里の地点で,更に10度左に転じて針路を115度としたところ,同船を右舷船首19度1,550メートルに見るようになり,その後同船が前路を左方に横切り,その方位に変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,レーダー等を活用するなどして動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,速やかに右転するなど同船の進路を避けることなく進行した。
 ハ号は,02時25分わずか前二等航海士が,至近に迫った大豊丸を認め,衝突の危険を感じ,左舵一杯を令し,汽笛を吹鳴したが効なく,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大豊丸は,船首部を圧壊し,ハ号は,右舷後部外板に擦過傷を生じ,二等航海士が,右舷後部付近にわずかな衝撃を感じ衝突音を聞いたもののそのまま続航し,03時00分衝突の報告を受けたC船長が反転を命じ,衝突地点に引き返した。

(航法の適用)
 本件は,夜間,対馬北東方沖合において,北上する大豊丸と東行するハ号とが衝突したもので,適用すべき航法について検討する。
 本件発生海域は,特別法である港則法及び海上交通安全法の適用外であるから,一般法である海上衝突予防法によって律することになる。
 本件は,ハ号が,10度ずつの転針を2度繰り返し,135度から115度に針路を転じ,また,大豊丸が,004度の一定針路で航行していたところ,衝突したものである。
 ハ号が115度に転針したとき,2船間の距離が1,550メートルで,その後衝突までの3分間は両船の方位に変化がなかったこと,両船の大きさ,操縦性能から,その後にハ号が十分に大豊丸の進路を避け衝突を回避することが可能であったこと,また,大豊丸がハ号の転針後その方位に変化がないことを知り得る状況であったこと,その上で警告信号を行い,間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作によって衝突を未然に防止することが可能であったことが,それぞれ認められる。
 したがって,本件は,ハ号の転針時から両船間に横切り船の航法を適用する見合い関係があったと認めることができるから,海上衝突予防法第15条,第16条及び第17条の各条の規定を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 大豊丸
(1)接近する他船はいないものと思い,考え事をしながら周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(2)警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 ハ号
(1)針路を左に転じたこと
(2)いずれ大豊丸が自船を避けるものと思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(3)大豊丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件は,大豊丸が,周囲の見張りを十分に行っていれば,ハ号を視認することができ,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近することが分かり,警告信号を行い,間近に接近したとき右転するなり機関を後進にかけ行きあしを止めるなりして衝突を避けるための協力動作がとられていたものと認められる。
 したがって,A受審人が,接近する他船はいないものと思い,考え事をしながら周囲の見張りを十分に行っておらず,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,ハ号が,右舷船首方から前路を左方に横切る態勢で接近する大豊丸を認めた際,同船に対する動静監視を十分に行っていれば,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近することが分かり,速やかに右転するなど同船の進路を避けることにより,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,ハ号が,大豊丸の動静監視を十分に行わず,同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 ハ号が針路を左に転じたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,対馬北東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,東行中のハ号が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る大豊丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上中の大豊丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,対馬北東方沖合において,漁場を移動するため北上する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,接近する他船はいないものと思い,考え事をしながら周囲の見張りを十分に行っていなかった職務上の過失により,左舷船首方から前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するハ号に気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き,自船の船首部を圧壊させ,ハ号の右舷後部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:26KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION