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平成18年広審第24号
件名

貨物船第六丸岡丸貨物船第三鹿児島丸衝突事件
第二審請求者〔理事官 上田英夫〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(橋本 學,島 友二郎,野村昌志)

理事官
上田英夫

受審人
A 職名:第六丸岡丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第三鹿児島丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
第六丸岡丸・・・船首部ファッションプレートを圧壊
第三鹿児島丸・・・左舷船首部外板に破口を伴う凹損

原因
第六丸岡丸・・・大型船の陰となる部分の安全を十分に確認することなく進行したこと
第三鹿児島丸・・・大型船の陰となる部分の安全を十分に確認することなく進行したこと

主文

 本件衝突は,港内において,西行中の第六丸岡丸が,右舷前方の桟橋に係留している大型船に視界を遮られ,南下する第三鹿児島丸を視野の内に捉えることができない状況となった際,特殊な状況下で必要とされる注意義務を怠り,死角に入った同船との関係を十分に把握しないまま進行したことと,南下中の第三鹿児島丸が,左舷前方の桟橋に係留している大型船に視界を遮られ,西行する第六丸岡丸を視野の内に捉えることができない状況となった際,特殊な状況下で必要とされる注意義務を怠り,死角に入った同船との関係を十分に把握しないまま進行したこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月6日13時12分
 山口県徳山下松港
 (北緯34度03.1分 東経131度46.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第六丸岡丸 貨物船第三鹿児島丸
総トン数 432トン 417トン
全長 58.92メートル 69.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第六丸岡丸
 第六丸岡丸(以下「丸岡丸」という。)は,平成12年5月に進水した,船尾船橋型鋼製液体化学薬品ばら積船で,レーダー1台及びGPS装置を備え,主として兵庫県東播磨港や山口県徳山下松港で苛性ソーダを積み,同県小野田港や大阪港で揚げる航路に就航していた。
 また,同船の船体性能表による最大航海速力は11.016ノット,航海速力は10.514ノット,半速力は9.100ノット,微速力は6.810ノット及び最微速力は5.860ノットであり,その後進性能は,最大航海速力で機関を逆転した場合,船体停止までに要する時間は1分12秒,船体停止までの航走距離は142メートルであった。
イ 第三鹿児島丸
 第三鹿児島丸(以下「鹿児島丸」という。)は,昭和58年6月に進水した,船尾船橋型鋼製貨物船で,レーダー1台及びGPS装置を備え,主として徳山下松港で塩化カルシウムを積み,京浜港で揚げた後,茨城県鹿島港でセメント原料を積み,徳山下松港で揚げる航路に就航していた。
 また,同船の速力基準表による航海速力は10.5ノット,半速力は9.5ノット,微速力は7.0ノット及び最微速力は5.0ノットであり,最大速力で機関を逆転した場合,船体停止までに要する時間は1分48秒であった。

3 事実の経過
 丸岡丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,苛性ソーダ892トンを積み,船首3.30メートル船尾4.55メートルの喫水をもって,平成17年8月6日13時00分徳山下松港内にあるC社の原塩桟橋(以下「原塩桟橋」という。)北側に隣接する,同社出荷桟橋を発し,富田川の河口付近から仙島水道へ至る富田航路を経由する予定で,小野田港へ向かった。
 ちなみに,徳山下松港第1区(徳山港区)には,富田航路を始め,山田川河口を南方へ掘り下げた徳山航路,蛇島東方の出光航路の計3航路があるが,当該航路の名称はいずれも通称であり,港則法に定められた航路には当たらないものであった。
 離桟後,A受審人は,一旦,徳山航路に沿って南下し,原塩桟橋の南端から南南西方約350メートルの地点に設置されている緑色左舷灯浮標を替わして右転したのち,13時07分徳山下松港地ノ筏灯台(以下,衝突地点を表記する場合を除き「地ノ筏灯台」という。)から065度(真方位,以下同じ。)600メートルの地点に達したとき,富田航路に沿って針路を278度に定め,機関を回転数毎分220の極微速力前進にかけ,5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって進行した。
 ところで,富田航路は,C社岸壁のセメント4号桟橋と,その西側に位置するD社岸壁間の水路(以下「DC水路」という。)に,仙島の州鼻沖で直角に交わっているうえ,同セメント4号桟橋は,C社岸壁の南西角から約150メートル南方へ突き出た形状であり,その東西両側には数千トン級の大型船が係留することがあるから,富田航路を西行する船舶及びDC水路を南下する船舶の操船者は,自船及び他船がセメント4号桟橋に係留している大型船の陰に隠れ,それぞれ相手船を視野の内に捉えることができない状況となった際,DC水路の出口付近で互いに著しく接近することのないよう,特殊な状況下で必要とされる注意を払い,死角となる部分に存在する他船との関係を十分に把握し,安全を期することが求められた。
 そして,13時09分A受審人は,地ノ筏灯台から039度370メートルの地点に至ったとき,右舷船首43度680メートルのところに,DC水路を南下する鹿児島丸を視認し,その前方を通過するつもりで続航したところ,やがて,同船がセメント4号桟橋に係留している大型船の陰に隠れ,視野の内に捉えることができない状況となったが,鹿児島丸と同水路の出口付近で出会い,互いに著しく接近するおそれがあることに思い至らず,特殊な状況下で必要とされる注意を払うことなく,死角に入った鹿児島丸との関係を十分に把握しないまま進行した。
 こうして,A受審人は,その後も,依然として,特殊な状況下で必要とされる注意を払うことなく,同じ針路及び速力で続航中,13時11分半セメント4号桟橋に係留していた大型船の陰から現れた鹿児島丸を認めて,衝突の危険を感じ,急きょ,機関を全速力後進にかけたが,及ばず,13時12分徳山下松港地ノ筏灯台から328度420メートルの地点において,丸岡丸は,船首方位が300度,速力がわずかな前進行きあしとなったとき,その船首が,鹿児島丸の左舷船首部に前方から73度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の南風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 また,鹿児島丸は,B受審人ほか4人が乗り組み,補油の目的で,船首1.20メートル船尾3.25メートルの喫水をもって,同日13時04分徳山下松港内のDC水路奥にあるC社の内航桟橋を発し,同港港町埠頭へ向かった。
 離桟後,B受審人は,引き続き出航操船に当たり,13時09分地ノ筏灯台から347度840メートルの地点に達したとき,DC水路に沿って針路を184度に定め,機関を極微速力前進の回転数毎分210にかけ,5.0ノットの速力で,手動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき,B受審人は,左舷船首43度680メートルのところに,富田航路を西行する丸岡丸を視認できたが,折悪しく,携帯電話で補油予定船と連絡を取り合っていたことなどから,丸岡丸の存在に気付かないまま続航したところ,やがて,同船が前示係留船の陰に隠れ,視野の内に捉えることができない状況となったが,死角となる部分に他船が存在したならば,同水路の出口付近で出会い,互いに著しく接近するおそれがあることに思い至らず,特殊な状況下で必要とされる注意を払うことなく,死角に入った丸岡丸との関係を十分に把握しないまま進行した。
 こうして,B受審人は,その後も,依然として,特殊な状況下で必要とされる注意を払うことなく,丸岡丸の存在に気付かないまま,同じ針路及び速力で進行中,13時11分半桟橋係留船の陰から現れた丸岡丸を認めて,衝突の危険を感じ,急きょ,機関を全速力後進にかけたが,及ばず,鹿児島丸は,船首が193度を向いたとき,約2.0ノットの速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,丸岡丸は船首部ファッションプレートを圧壊し,鹿児島丸は左舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じた。

(航法の適用)
 本件は,港則法が適用される徳山下松港において発生した事例であるから,一義的には同法の適用が考えられるが,衝突地点付近の海域が,同法第14条ないし19条に定められた航法について何らの規制もない海域に当たることから,海上衝突予防法第41条第1項特別法優先の規定には当たらない。
 したがって,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の適用について検討する。
 丸岡丸は富田航路を西行中に,鹿児島丸はDC水路を南下中に衝突したものであり,予防法第15条に規定される横切り船の関係で衝突したと考えることもできるが,衝突に至る前,両船ともに桟橋に係留していた大型船に視界を遮られ,相手船を視野の内に捉えることができない状況であったと認められることから,「互いに他の船舶の視野の内にある場合」と条件設定されている同条を適用するには当たらない。
 したがって,その時の特殊な状況により必要とされる注意義務を規定した,予防法第39条の船員の常務をもって律することとする。

(本件発生に至る事由)
1 丸岡丸
(1)鹿児島丸がセメント4号桟橋に係留していた大型船の陰に隠れ,視野の内に捉えることができない状況となったこと
(2)A受審人が,鹿児島丸とDC水路の出口付近で出会い,互いに著しく接近するおそれがあることに思い至らなかったこと
(3)A受審人が,特殊な状況下で必要とされる注意を払わなかったこと
(4)A受審人が,大型船の陰となる部分の安全を十分に確認することなく進行したこと

2 鹿児島丸
(1)丸岡丸がセメント4号桟橋に係留していた大型船の陰に隠れ,視野の内に捉えることができない状況となったこと
(2)B受審人が,丸岡丸の存在に気付かず,同船とDC水路の出口付近で出会い,互いに著しく接近することに思い至らなかったこと
(3)B受審人が,特殊な状況下で必要とされる注意を払わなかったこと
(4)B受審人が,大型船の陰となる部分の安全を十分に確認することなく進行したこと

(原因の考察)
 丸岡丸は,徳山下松港において,富田航路を西行中,船橋当直者が,セメント4号桟橋に係留している大型船が視界を遮り,DC水路を南下する鹿児島丸を視野の内に捉えることができない状況となった際,特殊な状況下で必要とされる注意を払い,死角に入った鹿児島丸との関係を十分に把握し,互いに著しく接近することがないように努めていたならば,衝突を避けることは可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,死角に入った鹿児島丸との関係を十分に把握せず,互いに著しく接近するおそれがあることに思い至らないまま,特殊な状況下で必要とされる注意を払うことなく進行したことは,本件発生の原因となる。
 一方,鹿児島丸は,徳山下松港において,DC水路を南下中,船橋当直者が,セメント4号桟橋に係留している大型船が視界を遮り,富田航路を西行する丸岡丸を視野の内に捉えることができない状況となった際,特殊な状況下で必要とされる注意を払い,死角に入った丸岡丸との関係を十分に把握し,互いに著しく接近することがないように努めていたならば,衝突を避けることは可能であったものと認められる。
 したがって,B受審人が,丸岡丸の存在に気付かなかったうえ,死角に入った同船との関係を十分に把握せず,互いに著しく接近するおそれがあることに思い至らないまま,特殊な状況下で必要とされる注意を払うことなく進行したことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,徳山下松港において,富田航路を西行中の丸岡丸が,セメント4号桟橋に係留している大型船に視界を遮られ,DC水路を南下する鹿児島丸を視野の内に捉えることができない状況となった際,特殊な状況下で必要とされる注意義務を怠り,死角に入った同船との関係を十分に把握しないまま進行したことと,DC水路を南下中の鹿児島丸が,同大型船に視界を遮られ,富田航路を西行する丸岡丸を視野の内に捉えることができない状況となった際,特殊な状況下で必要とされる注意義務を怠り,死角に入った同船との関係を十分に把握しないまま進行したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,徳山下松港において,富田航路を西行中,DC水路を南下する鹿児島丸が,セメント4号桟橋に係留している大型船の陰に隠れ,視野の内に捉えることができない状況となった場合,同水路の出口付近で出会い,互いに著しく接近することのないよう,特殊な状況下で必要とされる注意を払うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,鹿児島丸と互いに著しく接近するおそれがあることに思い至らず,特殊な状況下で必要とされる注意を払わなかった職務上の過失により,大型船の陰となる部分の安全を十分に確認しないまま進行して,鹿児島丸との衝突を招き,自船の船首部ファッションプレートに圧壊を生じさせ,鹿児島丸の左舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,徳山下松港において,DC水路を南下中,セメント4号桟橋に係留している大型船が視界を遮り,その陰に隠れている丸岡丸を視野の内に捉えることができない状況となった場合,同水路の出口付近で出会い,互いに著しく接近することのないよう,特殊な状況下で必要とされる注意を払うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,丸岡丸の存在に気付いていなかったことから,同船と著しく接近するおそれがあることに思い至らず,特殊な状況下で必要とされる注意を払わなかった職務上の過失により,大型船の陰となる部分の安全を十分に確認しないまま進行して,丸岡丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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